女としての幸せ

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女としての幸せ

タグ『書く予定なんてひとつもない小説のワンシーンを書く』  余命3ヵ月。  体調崩す日々が多くて会社に休みを取り病院に行った。  様々な検査や診察もして、もう手遅れだって言われてしまった。  自覚症状の前から着実に蝕んでいた病気。  即入院となり、家族や友達が来てくれて心配をしていた。  数年間、付き合っているカズくんもあとから来てくれて、重度の病気なんだと真実を話した。  それから、2カ月半が過ぎていった。  余命まであと半月だ。  母は毎日のように見舞いに来るが、目蓋が時々腫れていた。  きっと私が居ない時に泣いているのだろう。ごめんね、お母さん。  こんな娘で、もっと早く病院に行けば助かるかもしれない病気だったんだから。  目蓋が震え、涙が零れそう。必死に手の甲で拭いとる。  私が弱気になったら、お母さんや周りが心配する。  だから平気なフリをして元気な姿だけを見せていた。  でも、空元気も限界が来たみたい。  そう感じたのは、カズくんと夜に2人っきりで病室に居た時だった。 「ねぇ、カズくん。私、死にたくないよ、まだ生きてたいよ」  死へのカウントダウンが襲ってくる恐怖に等々耐えられなくなった。 「南・・・・・・」  カズくんにも弱気な部分を出さなかったから、カズくんの驚いた顔が一瞬だけ見えた。  眉は下がり私を切なさそうに見つめてくる。  私はカズくんの顔を見た後に下を見て毛布を一生懸命に掴んだ。寝た状態でしか話せなくなっていた。 「だって、私が死んだらカズくん、私の事を忘れちゃう。他の人と幸せになっちゃう」  小さい声で呟くと、上からカズくんに抱き締められた。 「俺は南を忘れたりしない。他の人と幸せにならないよ」  顔を合わせず、私の身体に顔を埋める。そっと耳元で囁かれた。 「カズくんの隣は私じゃなきゃ・・・・・・」  目蓋に水が溜まり、頬を伝う。  ごめんね、他の人とカズくんが一緒になって欲しくなくて。ワガママでごめんね。  カズくんは抱き締めるのを止めて私をじーっと見つめる。私の頭に手を置き、優しく撫でながらこう言う。 「大丈夫だから、俺には南しか居ない」と。 「私ね、カズくんと結婚して、子供産んで、パパとママになって幸せに暮らすんだよ」  今じゃ夢物語でしかない夢を語る。カズくんの妻になって女としての幸せを掴みたかった。  ずっとカズくんと泣きながら、思い出話をして夜を明かした。  そうして、半月が過ぎて余命通り、私の人生は終わりを迎えた。
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