埋まらない一行日記

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埋まらない一行日記

「だー!終わんねぇくっそ……」 髪の毛がくしゃくしゃになるほどにかきむしりながら、俺は天井に埋め込まれたシーリングライトを見上げる。 途切れた集中力と焦燥。 今すぐ机に突っ伏したい衝動に駆られたが、それはその上に広げられた白い用紙のせいで阻止された。 ふと壁に掛けてある時計に目を向けると、針はいつの間にか午前3時を回っていた。あと数時間後には学校に行かなければならない。部活に入っていない俺にとっては、実に約一ヶ月ぶりの学校に。 「……こんなことになんなら、毎日やっとけばよかったなぁ…」 未だ宿題が終わっていない俺を嘲笑うように、遠くでセミの声が響く。空はほのかに明かりを帯びて、その景色にいっそう焦りが埋まれた。 今の段階で、終わっていないのは一行日記だけ。中学生にもなってなぜこんなことをしているのだと口を尖らせながらも、真面目に1日1日を思い出しながら埋めていく。しかし当然一ヶ月前に何をしたのかなんて覚えているわけでもないし、かといって適当にあることないことを書き綴る気にはなれなかった。 ………いや 「………そういえば、今年はなにもしてなかったんだっけ」 必死に頭を捻っても思い出せないのは、多分そもそもやっていないから。 必死に頭を捻っても書けないのは、嘘で誤魔化したくないから。 そんな事は分かっていても、平然と世界は回って学校の時間は近づいてくる。とにかく少しでも空白を埋めようとまだ真新しいシャーペンを持つも、それはすぐに机の上に置かれた。 ここまで一行日記で手こずったのは今年が初めてだ。去年だったら毎日ちゃんとその日の出来事を書いて、なんなら書く場所が足りずに文字が枠からはみ出していたのを覚えている。 しかし今となっては、30日もあったはずの日常で空白の一行もろくに埋められやしない。それほどまでに、思い出に残るものは無かったということだ。 田舎であるうちの地域でも花火だったり夏祭りという行事は存在したし、友達から行こうと誘われることもあった。 だけど俺は頑なに、それに行こうとは思えなかった。 だって行ったら、認めざるを得ないような気がして。 ………余計に、悲しくなる気がして 「………会いたいよ」 君が好きな青色が広がるのを見て、点々と書いていた何もなかったの文字が、少しずつ滲んでいった。
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