朝はいじめから

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朝はいじめから

早朝。快晴。東京と他県の境目にある、周りが木々に囲まれた古い駅。淡い絵具を散らす桜を忌々しげにみつめながら中肉中背の少年佐藤涼太は道を急いだ。彼の高校の朝はいじめから始まる。駅の改札を出て10mから戦いは始まっているのだ。だから被害に遭わない為には、早く学校へ行かねばならない。昨日は部活の朝練の奴に殴られたが、この時間なら、誰にも会わないはず。まだ少し痛む頬に手をやりながらそう考えた涼太であった。が、ふと見上げた木から落ちてきた茶色い物体が彼の頭上を襲った。ひんやりとした、ねばねばとした、何とも不快な感覚。涼太は思わず声をあげた。 「グギャッ!!」 「グッドモーニングキモ太!」 木の上から見下ろす、金色の短髪の少年は納豆をぐちゃぐちゃかきまぜながら、ニヤリと笑う。 「いじめポイント19は固いやろ!」 「……駄目だ。こういうイタズラ系は実行犯二人からじゃないとポイントが認められないらしいよ。蔑称ポイントで3点がせいぜいかな」 分厚い辞書をめくった涼太は、あくびをしながら木から落ちてきた金髪の少年、金沢に開いたページを見せる。金沢はあーあーとあくびどため息がマジった声をあげ、ガクッと肩を落とした。 「早く出るには早くポイントためなきゃならんが、痛いのや苦しいのは勘弁やで」 「だね」 そう言うと二人は離れて歩いた。この学校は原則的に友人付き合い禁止なのである。いつも誰かと何となく吊るんでいた涼太は最初は寂しく思ったが、誰かに合わせて行きたくもないトイレに行ったり、遅刻しないで澄むやのも事実で。だんだんと友人なしにもなれてきた。だが。 「こんな学校じゃ公務員になれない……よい大学にも行けない……早く脱出したい……」 涼太は花粉症でもないのに鼻をすすりながら、早歩きを始めた。
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