シャルル五世

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悪逆非道、極悪非道、そんな言葉をたくさん浴びながら、我が一族は今まで生きてきた。 その言葉がまるで賞賛に値するかのように、我が父、シャルル四世はこの国で胸を張り大手を振って歩いていた。 僕は、そんな風になれない。 僕は……。誰も殺めたくない。 僕は、ただ、みんなと、仲良く生きていたいだけなのに。 そんな、僕一人の言葉は、戯言のように父の耳には全く届いていなかった。 「ジュニア、お前はまだ誰も殺してないのか?いつまでそうしてるつもりだ。」 夕食の席で、父は食事を食べる手を止め、僕を見た。 その冷たく冷えきった視線。 背中が寒くなる。 父の目はとても怖い。 こんな目で見られたら、誰もが動けなくなる。 「我がシャルル家は、殺しができて一人前。それが出来なければ生きてる意味がない。」 そして、母に目をやる。 母は、父以上に冷酷な目で、まるで汚物でも見るかのように僕を見た。 事実、この家で一番冷酷なのは、この母親であることに間違いはない。 「まぁ、もう少し、様子を見ましょう。この子だってこのままじゃダメだって分かってるはずでしょ。さぁ、それより食事を済ませちゃいましょう。今日のお肉は、お父様が捕ってきた上質なお肉よ」 母の言葉に吐き気を催す。 父親はボク達同種の命をこうも簡単に殺戮して食卓へ並べる。 僕は、いつものように、それを食べるふりして、下に落とした。 「お父様もお母様も、貴方のこと心配してるのよ。」 いつもの空き地で、僕が最も信頼してる愛しのロザリーナが大きな緑色の瞳で僕を見上げた。 この世の中で、一番心を許せる相手だ。 僕のために、毎日野菜を届けてくれる。 こんなこと、両親に知られたら大変なことになる。 「そんなこと分かってる。でも、僕にはできない。」 この世界は弱肉強食だ、小さい頃からそう教わってきた。 でも、僕はみんなが平和になる道があるとずっと思ってる。 「また明日ここで待ってるね。」 答えを出せない僕の心を察してか、彼女は静かな笑顔を見せ背を向けた。 屋敷に帰ると、何だかいつもと様子が違うことに気が付いた。 イヤな感じがする。静かすぎる。 リビングの扉が微妙に開いている。 僕は、恐る恐る中を覗いてみた。 「---------。」 絶句した。 声が出ない。 物音に気付いた、母が振り返った。 「あら、おかえり。」 何事も無いような母親の一言。 全身に寒気が走る。身体から力が抜けて行く。 「……、母さん、なにを……。」 絞り出した声が自分の声とは思えないほど、震えてた。 「何って?見て分かるでしょ。」 母親は、手に着いた父親の破片を舐め始めた。 「私ね、お腹に新しい命が宿ったの。だから、栄養が必要だったの。」 だから……、だから…………。父親を食べたと言うのか? 「僕にはそんなこと……。」 もう何も考えられなかった。 僕は、震える足に力を込めて、家を出た。 こんな時、頼れるのは、イヤ、会いたいのは、ロザリーナしかいない。 君の顔が見たい。君に会いたい。 「どうしたの?」 こんな時間に?と彼女が言い終わる前に、僕は彼女を抱きしめた。 安心した。彼女が存在してる、ただそれだけで、僕の心はいっぱいになった。 「何か、あったのね?」 話してみてって、言いながら、彼女は僕の首に手を伸ばした。 「母さんが……。」 これ以上僕の言葉は続かなかった。 ロザリーナのカマが僕の首を跳ねた。 どうして……?薄れ行く意識の中で見た彼女の瞳がきらめいてた。 「ちょうど夕食の時間だったの。この世は弱肉強食の世界って昔から言うじゃない。私たちカマキリは、それが当たり前なのよ。」 ああ、そうだ、僕はカマキリだ。 草を食べ続けていた僕には、僕は…それを認めたくなかっただけ。 一度も使うことのなかった、僕のカマが落ちていく様を見つめながら、僕の意識は途絶えた。
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