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相手は困ったように、眉根を寄せて言う。
「いくら綾瀬さんでも、これ以上は――――今は綾瀬さんも一般人ですし……」
さすがに元警視とはいえ、市井に下った者にはこれから先は教えられない。
すると、綾瀬もそれ以上深追いする事は止めて『そうか』と頷いた。
「悪かったな。仕事の邪魔して」
「いえ……」
「このホストクラブにも行ってみたのか? 」
「――」
ダンマリを決め込もうとする様子の男に、綾瀬は人懐っこい笑みを向ける。
「お前らも張り込みだの聞き込みだの、本当に大変だねぇ……ほら、これやるよ。さっき自販機で買ったんだ」
そう言いながら、綾瀬は缶コーヒーを二つ差し出す。
相手は困惑顔になりながら断ろうとするが――。
「これくらい奢らせてくれよ。迷惑料だ」
朗らかに言うと、無下に断るのも気が引けるのか『どうも……』といって相手は受け取った。
その様子をニコニコしながら見遣り、
「ところで、あいつの嫌疑は晴れたのか? 」
世間話をするような気安さでそう話を振ると、相手は『ええ』と答えた。
「佐々木亜夢の方は、裏も取れましたからね。犯行時間は、家族を交えてクルーズ船の就航レセプションに出席していたとの、多くの目撃情報がありました。佐々木は元々出席する予定ではなかったらしく、受付が佐々木との詳細なやり取りを覚えていました。記録も残っています。今回の事件には係わっていないようですね。ただ、被害者の幸村春夫とは生前トラブルがあったらしいですが――しかしとにかく、今回の事件とは関係ないようですね」
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