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「おいおい、こっちも手の内は分かってるんだ。ダンマリは無しだぜ――」
言いかけた綾瀬の背に、苛立った声が投げられる。
「おい、探偵! これからホストクラブに行くんじゃないのか!? 」
佐々木は、路上駐車していた運転手とコソコソ何やら話し始めた綾瀬に向かい、何をしているんだと急かす。
「路駐なんて今は関係ないだろう! 早く行こうぜ! 」
「――ああ、すまんが……ちょっとお遣いを頼まれてくれないか? 」
「お遣い? 」
「『セッターカートン』を、一つ通りを抜けた先の小川商店で買ってきてくれ。ほら、カネだ」
「セッターカートン……なんだそれ? 今必要なのか? 」
「ああ、絶対必要な道具だ。ここで待っているから、直ぐ頼む」
真剣な顔で言うと、佐々木も真面目な顔になり「わかった」と請け負った。
綾瀬の強い言葉に、佐々木はそれを、余程大切な道具なんだと思ったようだ。
「それじゃあ、ここを動くなよ、探偵! 」
「ああ、頼んだぞ!! 」
ダッシュして行く後ろ姿を見送りながら、綾瀬はクルリと振り返る。
「――――で、話の続きをしようか? 」
体よく厄介払いをした彼は、そう言うとニコリと微笑んだ。
(※ちなみにセッターとは、タバコのセブンスターの隠語である。カートンはタバコ10箱入りの単位)
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