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それを聞き、綾瀬はフッと苦笑をもらした。
「オレはあいつと言っただけで、佐々木亜夢とは口にしていないんだけどね」
「あ……」
「これからは気を付けろよ」
そう言うと、綾瀬は一つウィンクをして車から離れた。
車内では、男の相棒が何やら凄い剣幕で捲し立てているのが分かったが――まぁ、このくらいならコーヒーでチャラになるだろう。
綾瀬は長い脚を颯爽と捌き、幸村春夫が働いていたらしいホストクラブへ向かおうとする。
しかし、十歩ばかり進んだところで、背中にドスっと衝撃が走った。
バッと振り返ると、佐々木亜夢が鬼のような顔で立っていた。
「ふざけんなよ、オッサン! 何が小川商店だ、何がセッターカートンだっ!! 」
綾瀬の背中に投げ付けられたのは、佐々木に、必要な道具だから買ってこいと言ったセブンスター1カートンだった。
「……ああ、本当に買ってきてくれたんだな。サンキュー」
「小川商店なんて無いじゃないか!! 」
「そぉか? 通りを間違えたかなぁ~」
すっとぼけて言うと、佐々木は怒りでワナワナと震える。
「ボケてんじゃねーよ! それに『セッター』って、タバコの銘柄の隠語だってコンビニの兄ちゃんが言ってたぞ! それなら最初からセブンスターって言えよな! オレにだってそのくらいは分かるんだから! だいたい、そこの角にもタバコの自販機があるじゃないか!! 」
「あー…気付かなかったよ。悪かったな」
当然知っていたが、とにかく佐々木を追い払いたくて咄嗟に口から出たのだ。
自分が、刑事と接触している場面を一般人に見せるのは、あまり具合がよろしくないと判断して。
綾瀬はポリポリと頬をかきながら、足元のカートンを拾い上げる。
「お詫びに、一つやろうか? 」
「いらねーよ! 」
佐々木は即座に言い返し、キッと綾瀬を睨み付ける。
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