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綾瀬塔矢は、退屈していた。
ここのところ、仕事がサッパリだからだ。
彼の勤める職場は『綾瀬探偵事務所』という小さな探偵事務所であり、綾瀬はそこの唯一の社員であり所長であった。
彼はタバコに手を伸ばし、その箱が空なのに気付くと、大きく深い溜め息をついた。
――――とうとう、タバコまで無くなっちまったか。
ストックしていた最後のタバコを切らし、綾瀬は舌打ちをする。
ニコ中にとって、これは心底キツイ。
綾瀬は渋々、灰皿の中に溜まっていた吸い殻を集めた。
そうしてそれをバラバラにして器用に半紙で巻くと、辛うじて三本ばかりのタバコを急ごしらえし、そそくさと爪楊枝を用意する。
――――まさか、来年四十になるこの歳で、シケモクとはな。
制作した、いびつなタバコをチビチビ吸っていると、さすがにどうしようもなく情けない気がして、綾瀬はますます憂鬱になる。
いい加減に、何かしら仕事をしなくては……。
舌打ちをしながら、綾瀬はパソコンのメールをチェックした。
(ペット探しでも何でもいいから、依頼が入っていないかねぇ? )
だが、件数は今日も0のようである。
「……やだねぇ~不景気で」
依頼無しの状況に、綾瀬は重苦しい溜め息を吐き出す。
そうして一通り嘆息したところで、綾瀬はパソコンを閉じ、嫌々ながら立ち上がった。
こうなったら、気は進まないが、自分の足で営業を掛けなければならないだろう。
まずは、馴染みの店を廻って話を振るか……。
そう思い、ドアノブに手を掛けようとしたところで――――外側からガチャリと、ノブが回された。
「っと」
「――あ」
ノックもせずに入って来た青年と、軽くドア前で衝突する。
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