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「そういうオクソクは喋ったらダメだぞ。店長とか珊瑚さんとか、超厳しいんだから」
とはいえ、否定する様子はない。
つまり、肯定していることになる。
「…………ハルオの太客って、今もこの店に来てるんですか? 」
「うーん。来てるなぁ……今はもっぱら蒼さんを指名している」
そう言うと、メッシュはビクリと肩を揺らし、慌てたようにしてそそくさと除菌スプレーを手にし違う方のフロアへと去っていった。
(? )
それとなく背後を見ると、頭を金髪に染めた派手な男がこちらを睨んでいる。
どうやら、あの金髪がメッシュの言っていた蒼らしい。
(ふ~ん……回収するにも、相手があいつだから手を出せないでいるのか)
たしか表のパネルには、あの金髪はここのホストクラブのナンバー2と書いてあった。
ここの実力者相手では、「アンタの客に、ハルオに貸してたカネを返してもらえないか訊いてくれないか」とは言い難いだろう。
悶々としていたところに佐々木が喋りかけて来たから、メッシュはつい口が滑ったか。
(しっかし、本当にハルオが男相手にねぇ? いまいち信じられないな)
学生時代のハルオは、恋愛よりもずっと音楽に夢中だった。
好きなミュージシャンの話を、時間を忘れたようにいつまでも喋っていたものだ。
佐々木が知っているのは、あの頃のハルオだ。
(まぁ、男はともかく、女にもそんなに興味があるようには見えなかったけどね……)
だが、人は変わる。
現に、ハルオは佐々木の知らない所で、佐々木の事を声高に財布呼ばわりしていたのだ。
あの現場に遭遇していなければ、佐々木はいつまでもハルオの本性に気付かぬまま、阿呆のように友人を続けていただろう。
(取り敢えずオレの掴んだ有力な情報は、ハルオには借金があった事と、ここの太客と付き合っていた――――もしくはそいつとヒモのような関係だったということかな)
改めて探偵と情報を共有して、これからの捜査方針を確認するか。
(よしよし、オレって結構使えるヤツじゃん? もしかしたら、会社員よりも探偵の方が向いてるかもな)
と、佐々木は自分の成果に感心していた。
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