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そう、少し不満に思いながら、背後から渋々近づくオレの耳に、ちょうどいいタイミングで信じられない言葉が飛び込んで来た。
「――その、佐々木って本当にオサイフになってくれんの?」
「もちろんだよ。あいつの実家はスゲー金持ちなんだ。本人は普通のサラリーマンなんてやってるけど、住んでるマンション見るとぶったまげるぜ」
「そんなら、一人暮らしの新人リーマンだからって、遠慮することは無さそうだなぁ」
「バンドマンの親友のために、投資してくれってお願いしたら、喜んで金出しそうな感じ?」
「ああ。あいつ、ツラはいいけど性格が最悪だから、オレ以外に友達なんて0なんだよ。だから、オレがちょっと困ったような顔して頼めば……ほいほい金を出すハズさ」
――――なんという事だ !
親友だと思っていた男の、初めて聞く下卑た言い草に、オレは足元から震えが走るのを感じた。
それは、目の前が真っ赤になるような怒りと――そして、失望と悲しみの震えだった。
だからオレは、その場で踵を返して方向転換したのだ。
とてもその日は、そいつと顔を合わせる気分にはなれなくて。
しかし、一夜明け、状況は変わる。
何故かというと―――全国ニュースで、身体の複数個所を刺された惨殺遺体が発見されたと報道があった為だ。
それは、オレの親友だった男……幸村晴夫の死を、伝えるモノだった。
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