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竜の鱗
二頭の聖獣が空の向こうに消えていくのを、伽藍仙人はずっと見守っていた。自分に紅蘭が助けを求めてきたとき、彼女はそれを断ろうとした。自分にできることは本来次の命になるべき魂を現世にひと時と留めておくことだけだ。
そしてそれには代償がいる。
紅蘭の場合は、彼女の力と記憶そのものが術の代償だった。その術が、竜として転生するはずの少年に名を呼ばれ解けてしまったのだ。
そうなるよう仕向けたのは、他ならぬ自分自身だが。
「西の竜と、東の龍。異なるもの同士が惹かれ合うなんて、そんな楽しいことはないじゃないか。私はその結末が見たかったのだよ」
誰に言われるまでもなく、彼女は一人呟いてみせる。
「がんばれよ、紅蘭」
伽藍仙人は微笑み、遠くに旅立った教え子に語りかける。彼女が飛び立った空へと顔を向けると、緩やかな螺旋を描きながら落ちてくるものがあった。
それは、七色に光る二枚の鱗だった。
赤と青。その二つの鱗は、ゆったりと伽藍仙人のもとへと舞い落ちてくる。
笑みを深めて、伽藍仙人は竜と龍の贈り物へと、手を差し伸べていた。
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