無心

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 まずは全てを取っ払おう。何も無い空間。汚れの無いキャンバス。そこら辺に落ちてるただの紙。なんでもいいさ。そこに何もないなら。そこが無なら。  そうすると何か浮かんでくる。人の目や耳、鼻。それに口が付いたら、何か話し出す。それは心に残った言葉に違いない。感謝の言葉? 何気ない一言? いとおしい声?   違うな。罵声、怒声、中傷、蔑み、怨嗟の声。蘇ってくるのはいつもこれだ。  だから、それについて考えることになる。例えば、「オイ」とか「オマエ」と言った粗雑な言葉。大抵この後に続く言葉は何らかの要求で、それを受けなければ、それ相応の代償が待っている。なんとも災難だ。  では、その言葉を吐く者は誰か? それは力の強い者だ。  文字通りの腕力が強いということもあるが、それだけに留まらない。権力、身分、金、容姿、その時の立場。これらが力を決める。  古来から人間はこのようなものに踊らされてきた。その踊りは陳腐なもので、目も当てられない。だが、それは現在の生活においても変わることがない。これは人間がまるで成長していないことを表す。  だが、そんなものでさえ、助けになることがある。そのような話を一つしよう。
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