問題編

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 過去から現実へと意識を戻した時子は、この金庫の中には一体いくらの金が入っているのかを想像した。果たして自分ひとりで持ちきれるだろうか。そんな嬉しい悩みがもたげてくる。  時子は意を決して、震える手で金庫のダイヤルを回し始めた。番号を間違えないように、全神経を右手に集中させる。  全ての番号を回し終えると、時子はノブに力を込め、ゆっくりと引いた。  何の抵抗もなく、徐々に開いていく厚い鉄の扉。時子は血湧き肉踊った。  そして次の瞬間、時子の目に飛び込んできたのは、数えきれないほどの『鐘』だった。  金属の光沢を輝かせる色とりどりの鐘。小さいものでは1cm程度で、大きいものでは20cmはあろうかという鐘。鐘、鐘、鐘。金庫の中は鐘で埋め尽くされていた。時子が渇望していた方の『金』は、びた一文入ってはいなかった。この金庫には大田原の鐘のコレクションが保管されていたのだった。  唖然と目の前の光景に見入る時子の耳に、パトカーのサイレンの音が響いた。その音は確実にこちらに近づいてくる。警察が自分を捕まえに来たのだと気付いたときにはすでに遅かった。  計画は完璧だったはずなのに、警察を呼んだのは誰なのか。まさか身の危険を感じていた大田原が死ぬ前に自ら通報したのだろうか。いや、それはあり得ない。では一体誰が――。  大田原邸に突入してくる警察隊の足音を聞きながら、時子は絶望と混乱の渦に叩き落されたのだった。
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