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最終回 エイタ
「終わったぁ……」
仰向けに倒れ、雲が消えて晴れ渡る青空を見上げる。
魔王城も崩れ去り、辺りは瓦礫の山と化している。
その中心でオレは存分に太陽光を浴びる。
疲れた……。
体力的にというより、精神的に……。
元の世界に居たときは、こんな緊張に晒されることはなかった。
世界の平和の為に戦うことになるなんて、思ってもみなかった。
しかし、現実としてオレは魔王と戦い、そして勝ち、この世界に平和を取り戻すことが出来た。
――仲間たちと一緒に。
「エ・イ・タ・さん♪」
小鳥のような声が聞こえると同時に、太陽の光が遮られた。オレはこの声を良く知っている。
「……なんだ、クレリア」
若干、わざとらしく且つめんどくさそうに返事をする。
「終わりましたね……。長く苦しい戦いでした」
「そうだな」
同意する。
日数に換算するとそうでもないが、それでも随分長い旅だった気がする。
苦しい事もあったけど……。でもそれと同じくらい楽しい事もあった。
「ねぇ約束、覚えています?」
「約束?」
はて、なんのことだったか……。
「んもー! 戦いが終わったら、一緒に孤児院を立て直すって約束したじゃないですか!」
「そんな話、したっけ……」
旅に出る前、彼女と出会った孤児院。しかし魔王軍との戦いで孤児院は無残に破壊されてしまった。孤児たちは幸いにも無事だったが、そこを復興させるのがクレリアの目的でもあった。
だが“手伝いはする”と言ったが、一緒に立て直すってのは話が違うんじゃ……。
「それは違うよクレリア」
話に割って入ったのはメイベルだ。
「エイタくんはボクの魔法の研究の為に、実験に付き合ってくれる。そう約束したんだ」
「まてまて……」
それも約束した覚えはないぞ。
しかもメイベル、お前の研究って解剖とか不穏な単語が出てくるヤツだろ!
「お前たち何を言ってるんだ」
さらに会話に乱入してきたのはソーニャ。
「エ、エイタはあたしの国に戻り……。その、婚姻の儀を挙げて……国王になるんだ」
はい?
それはお前の父親が勝手に言い出したことじゃ……。それにお前だって嫌がってただろ!
「いいえ、私と一緒に来てもらいます!」
「違うね、ボクとだね!」
「いいや、あたしだ!」
睨みあいを始める女性三人。
「いや待て、まずオレの意見を尊重すべき――」
見かねてオレが立ち上がり三人の睨みあいに口を挟む。
「エイタさんは黙っててください!」
「エイタくんは黙ってて!」
「エイタは黙ってろ!」
三人の声が重なる。その勢いにオレは黙らざるを得なかった。
やれやれ……。魔王との戦いが終わっても、慌しい毎日が続きそうだ。
オレは言い争いを続ける三人の声を聞きながら、ため息をついて再び空を見上げ昼寝を始めるのだった。
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