第二章・―二日目―

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 俺はもう、な。良いとこ後数十分で駄目になる。だからお願いだ。この証明書をあんたに、もらって欲しいんだ。  ……証明書を、預かる? 否、正確には、もらい受けるという事だろう。  何故出逢ったばかりの、しかも病魔に侵されている人間に託すのだろう。  首を傾げていると、スマホを下げた彼が、最早何をしているのかも分からないくらいノイズが走った指先で、何やら画面をタップしていた。  家族はいない。余命宣告された途端、妻にも子供にも見離された。頼れる人間なんざ、いやしない。……なぁ、ここで逢ったのも、何かの縁だ。お願いだからこれを、受け取ってくれないか?  伝わるのは文章だけ。なのにこんなにもひっ迫した様子が伝わるのは、彼の操る文章が上手いせいだろうか?  昨日の出来事もあって、特に断る理由もないため、差し出されたそれを手に取ると、まるでため息のような、長いようで短いノイズが漏れる。
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