第一章・―病魔―

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 そうして得た時間は各自、自由に使って良い事になっている。  証明書さえ見せたら、どんな施設も無償で入れたり、食事も可能となる。  だから貧富の差もなく、死ぬまでの、壊れていくまでの間、人間としての尊厳を失わずに生きていけるのだ。  会計も必要ないので証明書だけ受け取り、病院を後にとぼとぼと歩きながらため息を吐く。  下された診断名は、透明病だ。  感染源も発症の仕方も不明の、かかった人間は徐々に透明になって、やがて誰の目にも留まらなくなる、永遠の孤独を味わう病魔だ。  それなのに、この病魔は患者自身が強く悲しみや苦しみを感じてしまう事により病状を早く進行させ、結果、余命より早くこの世界から消えてしまう者ばかりだと聞いている。  つまり、常に感情をフラットにしていなければ、明日どころか今日にでも、透明になりきってしまう可能性だってあるのだ。 「うっ……」  考えに耽りながら歩いていると、ふと呻き声が聞こえて辺りを見回す。
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