第一章・―病魔―

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 それにしても、えっと、おが……? おもいて、って言ったよな?  おが……、丘の事かな? おもいては、思い出かな? つまり、思い出の丘がある場所に行きたい、……で、合ってる?  そんな場所が、この辺に……あったな!  確か、先刻行った病院の裏手にあった。彼女、もしかして、そこに行きたがっているのか? 「あの、少し待っていて下さい」  それだけ告げて走り出す。  彼女を連れて行きたいけど、多分あの状態で歩かせたら、丘に着く頃には最早“人間”の形を保てていないだろう。  何か、何でも良いから運べるものがあれば――。  目についたのは、コンビニエンスストアだ。台車の一つでも借りられればと、急いで入って自身の証明書を見せると、事情を話してみる。  店員は束の間同情の色を滲ませると、快く貸してくれた。  それを押して走って、元いた場所にまだ彼女はうずくまっていてくれた。
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