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ぼとりと、もう片方の手から何かが滑り落ちる。
……何だ、これ?
拾ってみると、それは彼女が持つ証明書だった。
何故か彼女に返す事が躊躇われ、ゼリーでべたつく証明書を、そのままポケットに入れてしまう。
その間にも彼女はずるずると進み、止める間もなく丘のぎりぎり間際まで行ってしまっていた。
「あ、危ないですよ」
一体何をしようとしているのか、安易に想像がついてしまったけれど、本気でそうしてももう、彼女が助からない事は紛れもない。
「あ、う、……あ」
彼女はそれでも進んで行く。ゆっくりと、ぴちゃりと、進んで、そうして姿が見えなくなった。
――ばしゃんっ!
それが、彼女が最期に発した音、だった……。
「……」
しばらくその場で放心していた。
人間って、こんなにも呆気なく命が消えるものなんだと、神様から見せつけられた気がして怖かった。
だから、何も確認しないでその場から離れると、台車を綺麗にしてからコンビニエンスストアに返し、そのまま家路についたのだ。
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