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部屋に着くなり座り込み、先刻までの出来事を反芻する。
今まで特に気にしてもいなかったけど、いざ目の当たりにすると壮絶な光景であったと、何だか複雑な気分になり深く息を吐く。
そうしてふと、ポケットにしまったままの証明書を思い出して、取り出してみた。
ゼリーでべとついた部分を丁寧に拭き取ると、手帳型であるそれの表紙をしばらく見詰めていた。
ここには、持ち主が病魔により世界から消えてしまっても、遺族の元にこれが手渡し出来るように、人生そのものが細かく記されている。
つまり、これを読めば、彼女がどんな人生を送って、あんな風に壊れてしまったのか、全部が分かるという訳だ。
束の間躊躇ったが、思い切ってページを捲ってみる。
――そこには、なんて事のない半生が描かれていた。
とある夫婦の間に産まれた平凡な娘として、周りから愛されて育ってきた。
普通に学生時代や反抗期を経て、大学生になった時にようやく恋人が出来る。
……それが先刻彼女が口にしていた名前、確か“よしあぎ”という相手なのだろうか?
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