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堕ちる
この日、僕はむしゃくしゃしていた。
前日にあんな事があったからだろうか。それとも、今まで日課のように毎日放課後になるとイジメを行っていたからだろうか。とにかく森園に暴力を振るいたくて仕方がなかった。殴って蹴って汚水をぶちまけて。いつものように快感を味わいたかった。
昨日までなら簡単に叶っていた事だ。しかし、今日に限ってそれが難しいのだ。
「ごめんなぁガマちゃん。今日から部活あるんだよ」
「顧問の中谷がインフルエンザでさ、暫くは部活も自主練だったんだけど、今日遂に復活してな」
なんて話をし、武川と河室は僕の前からそそくさと消えた。まぁ部活動に入っている筈のアイツらが今までどうして毎日のように放課後にイジメなんて出来ていたのか、不思議に思わなかった僕も僕だ。アイツらは、ああ見えて実際はイジメなんてサッカーと比べれば二の次なのだろう。ターゲットが僕だった時だって、アイツらがイジメに手を染めたのはサッカーの為だった。サッカーの為なら、今すぐイジメを止めたって構わないに違いない。
じゃあ、横田も駄目なのか。武川と河室の後ろで僕を睨むその姿に視線を移す。その態度は相変わらずといったもので、少なくとも僕に同調してくれそうには見えなかった。
そうこうする内に三人とも消えてしまい、僕は一人取り残される事になったのだ。
一人でなんて何も出来る訳がない。イジメなんて下衆な行為は集団で群れるから出来るものだ。それを元いじめられっこの僕が元主犯の男を相手にどうこうするなんて不可能だ。昨日の有り様を思い出せば尚更だ。やっぱり帰るしかない。
僕はトボトボと歩き出した。イジメは毎日やらないと意味がない。だって僕は毎日欠かさず苛められたのだから。明日からは休み時間なども徹底的に苛めてやらないと。
僕の頭は森園への復讐の事でいっぱいだった。今日果たせなかった分を明日からどう取り返して行くか。そんな事ばかり考えていた。
だからだろうか。僕の足はいつものトイレへと向かっていた。通り過ぎるくらいならいいだろう。僕のイジメに対する未練の強さがそうさせていたのだ。
だがそこで、僕は思いも寄らない光景を目の当たりにする事になったのだ。
「……え?」
西日の差し込むトイレの中。そこに佇む傷だらけの横顔は、口元に怪しい笑みを浮かべている。手元に目を移すと、右手に鋏のようなものを握っているのが分かる。そして左手には、誰かの体操服が……。
「おい!!」
それが誰のものであるか気付いた瞬間、僕は無意識に叫んでいた。と同時にそこへ駆け寄ると、その手から鋏を取り上げた。
「何してるんだよ……!」
そこにいた人物━━森園大地は、キョトンとこちらを見ていた。左手には”武川”と名前の書かれた体操服をまだ握っている。
「そ、それも貸せよ!」
僕は慌てて左手に握っていた体操服も取り上げた。これで取り敢えずは一安心だ。そこに落ちていた特徴的な巾着袋に体操服を突っ込む。
すると、その様子を見ていた森園が小さく呟いた。
「もうちょっとだったのに」
極めてか細いその声は、あの傲慢だった森園大地から発せられたようには聞こえなかった。
復讐でもしたかったのだろう。同じサッカー部である森園は、今日は部活であの三人がいない事を知っていたに違いない。だからわざわざいつもイジメに使っているトイレで。
「……体操服を切れば、アイツらが傷つくと思ったの?」
僕は思わずそう訊いた。かつての暴君なら分かる筈だ。体操服を切り刻んだくらいでは、アイツらは何とも思わない事くらい。寧ろその後、”報復”という名目でどんな事をされるのか。考えただけでおぞましい。
森園は僕の言葉に全く反応しない。僕に鋏や体操服を取り上げられて、随分落ち込んでいるように見える。どうやら本気で体操服を切り刻む事がアイツらを傷つけられる行為だと信じていたようだ。
ほんの少し。ほんの少しだけ、可哀想に思えてくる。まぁ、ほんの少しだけど。
僕は散乱していた他の体操服や巾着袋を回収した。
「取り敢えず、これは僕が返しておくから」
切り刻みだけは免れたものの、トイレの床なんかに放置していたせいで体操服はどれもこれもすっかり汚れている。誰がどうしてこうなったのか、ちゃんと伝えておかないと。切り刻もうとしていたなんて言ったらきっと怒るんだろうなぁ、森園に。
後々の事を考え、僕は口元を緩ませながらトイレを出ようとした。
だが、その時。
「待って……!」
出ようとした途端、響くか細い声。振り返ると、森園が悲痛な顔でこちらを見ていた。
「何?」
僕は出来るだけ怪訝な表情を作って森園を睨んだ。
先ほどから何となく気持ち悪いのだ。元暴君の掠れた力ない声が。
「それ、頼むから置いてってくれよ。どうしてもやらないと気が済まねーんだよ」
森園は必死に訴えた。ついこないだまで苛め倒していた人間に頭まで下げて。
「頼むから……っ」
僕には全く理解出来なかった。何故意味のない行為にそんなに拘るのか。大体、これまでコイツが毎日受けていたイジメの内容を思うと、体操服を切るなんてちっぽけな行為で気が晴れるとは到底考えられない。それこそ僕のようにやられた内容と同じ事をしてやらないと。
「そんなの知らないよ」
僕はもう一度トイレを出ようとした。
が、奴は今度は僕の腕を掴んできたのだ。
「なぁって……!」
その一瞬で、僕の頭に一気に血が昇った。
「いい加減にしてよ!」
乱暴に手を振り払うと、森園は情けない声を上げてその場に転がる。僕の口元にまた笑みが溢れる。
「そんなに欲しけりゃ力ずくで奪いなよ!あの頃みたいにさぁ!」
僕は倒れたままの森園に何発も蹴りを与えた。まるでゴキブリを踏み潰すように、何度も何度も身体中を蹴りつける。
「まぁ、そんな事したらあの二人に全部チクるけどね!そしたらお前はもっと酷い暴力を振られるだろうね!」
奴の身体に蹴りを入れる度に鈍い音が響き、その口は微かに呻き声をあげる。
「呻いてないで何か言ったら!?」
最後にこないだ僕にしたように、奴の前髪を掴んで思いっきり引っ張ってやった。これだけやったら流石に反撃してくるかもしれない。一瞬、そんな考えが脳裏を過ったが、森園は虚ろな目で僕の暴力に耐えるだけだった。
「もういいや」
僕は軽く溜め息をつくと、項垂れる森園に背を向けた。いつの間にか落としていたあの三人の体操服を拾い上げると、今度こそトイレを出ようと一歩足を踏み出した。
だが、今度は足首に生温かい何かがまとわりつく感覚がした。恐る恐る足元を確認すると案の定、森園の手が僕の足首をしっかりと握っていた。
「なぁ、頼むよ」
傷だらけの顔でニカッと笑みを浮かべる森園に、僕は寒気を覚える。その異常なまでの執着心、取って付けたような薄っぺらい笑顔。そのどれもこれも鳥肌が立つくらい、”怖い”と感じたのだ。これまでもこの男を怖いと感じた事はいくらでもあったが、それらとは明らかに違ったものだ。気持ち悪さに怖いと感じるなんて。今までの経験の中でも、殆どないものだった。
「……どうして」
僕の口からは無意識に言葉が出ていた。こんな奴とまともに会話するつもりなんてなかったのに。
「どうしてそんなに拘るんだよ……」
僕はもう完全に困惑していた。さっきまでの勢いはどこへやら、森園の不可解な行動にお手上げ状態となってしまったのだ。
もしかすると、森園はイジメの辛さに耐えかねて頭がおかしくなってしまったのではないか。もう既に常人の理解の及ばないところへ行ってしまったのではないか。最早こんなのを相手にするとこちらが磨耗するばかりではないか。走って逃げた方が身のためではないか。そんな考えが脳裏を過っていた。
森園が僕の質問に答えたのは、そんな時だった。
「……示しておきたいんだよ」
森園は笑っていた。だがそれは先程のような薄っぺらい笑みではなかった。
「このままやられっぱなしじゃあ、俺に反撃の意思がないってアイツら勘違いしやがるだろ……?それだけは嫌だからさぁ」
ニヤリと弧を描き吊り上がる唇、それに比例するかのように鋭く吊り上がる目。それは僕のよく知る森園大地そのものだった。
「アイツらがそんなに傷つかなくたっていい!仕返しされたっていい!俺は俺自身の手でやれるだけの事をやる!」
僕は奴の気迫に圧倒されていた。
イジメのターゲットという過酷な立場で自分のプライドを保ったままでいられる事、行動を起こすだけの気力がある事、新しい未来を切り拓くという目標を掲げられる事。
どれも僕にはなかったものだ。
「……僕の事はムカつかないの?」
奴が切り刻もうとしていた体操服は三着。武川と河室と横田の分のみだ。肝心の僕の分がない。
「散々支配した相手にボコボコに殴られて、相当ムカついたでしょ?」
こんな事、訊かなくたって何となく予想はついていた。その予想通りであって欲しいと願う気持ちもあったが、それとは裏腹にそうであって欲しくないと願う気持ちも大きかった。
だって、森園大地にはいつまでも憎き悪魔であって欲しかったから。
「……ムカつくよ。でもお前に仕返しする資格、俺にはないから」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心に落胆と安堵が同時に押し寄せた。
森園、何でお前、過去を反省してるの?それじゃあ今お前へ復讐する事しか生き甲斐のない僕が惨めじゃないか。酷いよこんなの。お前が憎くて憎くて堪らない筈なのに。憎むべき人間なのに。
今はお前が羨ましくて仕方がない。
「森園くん」
僕は森園の目の前に、三人分の体操服を雑に放った。
「そんなにやりたいなら、勝手にしなよ」
そう言うと、奴の表情がみるみる内に明るくなる。分かりやす過ぎて逆にこっちが恥ずかしくなる程に。
森園大地が憎い。その気持ちは変わりはしない。
でも奴はもう悪魔でも野蛮人でもなかった。激しいイジメの標的となった森園は、初めて”こっち側”の気持ちに気が付いたのだろう。
身体が、心が、痛くて痛くて、辛くて苦しくて。誰かに気付いて欲しくても、もう泣き叫ぶ気力すら残っていない。ここに自分が存在する事さえも疎ましくて、だけど死ぬ勇気なんかなくて。こんな自分が惨めで情けなくて。だけど結局何も変わらなくて、こんな苦しみを何度も繰り返す。
森園もあの地獄を味わったのだろう。
その上で生まれた感情の一つくらいは、認めてやったってバチは当たらない。
━━━━そう思っていた。
「はぁーい、終了~!」
体操服を置き、トイレを出ようと背を向けた時だった。突然、後ろから森園の間延びした声が響いたのは。
「え……?」
僕は言い様のない嫌な予感を覚えながら、ゆっくりと振り向いた。
森園は素早く立ち上がると、意気揚々とトイレの個室へと向かった。それは三つある内の二番目で、最初から少し扉が開いている状態の個室だった。
その扉を開けると、森園のカバンが上手い具合にぶら下がっていて。森園はそのカバンからスマホを取り出した。
「ちゃんと撮れてるかな~っと」
ニヤニヤしながらスマホを操作すると、こちらへと視線を向ける。
その人を蔑むような目付きに、僕の頭は真っ白になった。
悪魔が復活した。そう確信したのだ。
「残念だったな、ガマ」
森園がゆっくりと僕の方へ向かって来る。
「随分長くはなったけど、ちゃんと撮れちゃったわ」
嬉しそうにケラケラ笑いながら、スマホの画面を僕に見せる。
「えーと?確か俺に情をかけたりするのはお前らの中ではタブーなんだよな?」
森園の声が頭の中でぐわんぐわんと響く。
「ちょっとでも優しくしたりー、庇ったりー……」
視界が、ぐらりと揺らぐ。
「今さっきのお前の行動は、どうなんだろうなぁ」
スマホの画面に映る二つの人影。分かりやすくはないが、そこに映っているのが誰であるかは一目瞭然だ。
「仲間である筈のアイツらの体操服をズタズタにする許可を、俺に出した。これ、一発アウトじゃね?」
目に涙が溜まっていくのが分かる。しかし、ここで泣いては駄目だ。まだ負けを認めたくない。僕は必死に泣くのを堪える。
「そんな長い動画なんて、アイツらは見ない」
「そりゃ編集くらいするけど?それこそ俺の都合のいいようにな」
「……でもそれを見せたってお前が許されるとは思えないな」
「別に許されたいとかじゃない。てか、苛められたくなくてこんな事した訳じゃねーよ」
分かってねーなぁ、ガマは。森園はニコニコしながらそう呟いた。
かと思えば次の瞬間、突然鬼の形相へと変化し、僕の胸ぐらを掴み上げた。
「だからぁ、お前を地獄に叩き落とす為にやったんだって」
不意を突かれて戸惑いつつも、僕は必死の抵抗を試みた。だがどんなに暴れても少しも力が及ばないのだ。さっきは手を振り払っただけで奴を転ばせる事が出来たのに。
「はは、何だ?俺に抵抗出来るとでも思ったか?」
森園が僕を更にぐいっと持ち上げる。すると遂に足が地面から離れてしまった。
「ざんねーん!さっきのは演技でーした!」
視界いっぱいに森園の顔が迫る。恐怖で抵抗などすっかり出来なくなり、僕の背中は思いっきり壁に叩きつけられた。
「うぐ……っ」
背中に稲妻のように走る激しい痛み。それと同時に鮮明に甦るあの頃の情景。
「全部!全部演技!なんなら昨日から仕込んでたんだからな!お前はずっと俺の掌の上なんだよ!」
森園が興奮して叫ぶ声が頭の中で何重にも重なって響く。
「……う、そだ……」
遂に、僕の目から涙が溢れ落ちる。
信じたくなかった。こんなに呆気なく、僕の一世一代の復讐が幕を閉じるなんて。また明日から地獄が始まるかもしれないなんて。この悪魔にまた支配されるだなんて。
だっておかしいじゃないか。バチが当たるべきはコイツなのに。思い知るべきはコイツなのに。何でこんなすぐに。
僕は、僕はただ、
「復讐したかっただけなのに……」
涙腺は一度崩壊してしまうと中々戻らない。僕は情けなく嗚咽をあげてその場に崩れ落ちた。
「……プッ」
そんな僕を、奴は更に追い詰める。
「ギャハハハハハハハ!!」
奴の高笑いが僕の鼓膜を揺らす。その不快な声に耐えきれず、僕は両手で耳を塞ごうとした。
だが、その時。今度は奴の蹴りが右頬に向かって飛んで来たのだ。当然避けられる筈もなく、「バキッ」という音と共に僕の身体は床に叩きつけられた。
「……それだよ」
痛みに蹲る僕を踏みつけ、奴は叫んだ。
「他人に頼らねーと何にも出来ない癖に自分の力で復讐してると勘違いしてる!その態度がムカつくんだよ!」
森園は叫びと共に僕の身体を蹴りつけた。何度も何度も執拗に腹などの服で見えない箇所を蹴り上げる。
苦痛の中、一瞬見えた森園の顔は怒りと憎しみに歪んでいた。
「俺は違う……!」
森園はまた僕の胸ぐらを掴んだ。そして、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。
「自分の道は自分で切り開くってもんだろ?」
ニヤリとしたり顔で笑う森園の顔は憎たらしい事この上なかった。
だが、今思えば全て奴の言う通りなのだ。あの三人がいたから復讐が出来た。そりゃあ心から信用出来る相手なんかじゃない。それでも、僕たちは同じ目的を持った"仲間"だったんだ。その証拠に僕はアイツらなしでは、まともに森園を苛める事なんて出来なかった。というか、しようともしなかった。
そう考えると、僕はもう何も言えなかった。
暫しの間、僕は床に突っ伏したまま放心し、何も考えられずにいた。両目から溢れ出る涙も止まらないまま、ただ茫然と森園の足を眺めていた。一方の森園も、一頻り僕を蹴りまくった後はそれで満足したのか、奴もまた暫くは動かなかった。
暫く経って森園が動くと共に僕はハッと我に返った。痛みの残った身体を何とか起こし、奴の方へと目を向ける。
「何……してるの……」
「は?行くんだよ。サッカー部に」
"サッカー部に行く"。ボーッとして回らなかった頭が徐々にその言葉の意味を理解していく。
「は……え……」
事の重大さに改めて気付いた時、僕の心は一気に混乱に陥った。
「やめて!!」
僕は必死に森園の腰にまとわりついてそう叫んだ。もう理性なんてとっくに働いていない。奴を止められるなら何だっていい。
「何だよ今更!」
「おねがい、おねがいだから行かないでねぇ言わないでぼく何でもするから」
森園は当然、僕を引き剥がそうとする。
「離れろよ!うぜーんだよ!」
「あやまる!ぼくあやまるよ!ごめんなさい!ねぇごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「うぜーっつってんだろ!!」
必死の抵抗も虚しく、遂に僕は投げ飛ばされた。床に背中を打ち付け、ゴロゴロ転がり、そのまま正面から壁に激突した。
「うう……」
全身に走る鈍痛にたまらず唸り声をあげる。こんな状態でも何とかして森園を止めたくて、だけどもう奴は僕の手の届く場所にはいなくて。起き上がろうにも痛みで身体がどうにも上手く動かない。
それでも、やっとの思いで身体を起こした時。アイツの姿を捉える事が出来た。
「……はは、キモチワリ」
森園はまるで蛆虫でも見るかのような目でこちらを蔑むと、小走りでトイレを出て行った。
「ま、まって……!」
あぁ、マズイ。そう思った瞬間、僕は立ち上がった。どこにそんな力が残っていたかは分からない。アレが火事場の馬鹿力というものだったのかもしれない。森園を止める。それしか頭になくて、僕はフラフラと走り出した。
トイレを出る。すると左側、階段に続く廊下を歩く奴の背中。僕はそれに追い付こうと必死に足を前へ出した。
そう。この時は追い付く事しか考えていなかった。
最初からあんな事をするつもりなんかじゃなかったんだ。
アイツの背中が段々近付いて来て。幸運な事にアイツは僕の存在に気が付いていなくて。
アイツの背中に手が届く頃には、一階へと続く階段にちょうど差し掛かろうとしていたところで。
━━━━あ、今なら確実に止められる。
そう思ったんだ。
ドンッ
階段を降りようとしていた奴の背中を、僕は目一杯の力を込めて押し出した。
一瞬、奴がこっちを振り向く。その顔は驚愕の色に染まっていて。目なんかこれでもかという程、見開かれていて。
あぁ、なんて間抜けな顔だ。
そう思うと、自然と笑いが込み上げてきた。
「ざまあみろ」
階段を転げ落ちる奴の姿は、やけにスローに見えた。
僕はただただ、人生初の勝利の喜びを噛み締めていた。
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