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欺瞞
月曜日の学校は、大変だった。
隼人は機嫌が悪くて一言も口を聞いてくれないし、綾乃は落ち込んでるし。
何があったのか聞けないが、作戦は失敗したようだ。
「なあ…ごめんってば」
帰宅時間になっても、隼人は怒ったままだった。
「何で謝ってるのか、分からないで謝ってるでしょ」
「勝手なことして、ごめん」
「ヒカルってさ、人の想いを踏みにじるのが得意だよね」
もう目も見てくれない。
「ごめん……」
「これ以上話しても意味ないから」
隼人が、完全に心を閉じてしまった。
(ぼくだって、綾乃に頼まれて仕方なく……。どうすれば良かったんだよ)
いや、欺瞞だ。
本当は全部分かってたはずだ。
ぼくは隼人の気持ちに応えられないから、綾乃のお願いを嬉々としてきいた。
イツキのことも知っていた。
心のどこかでそんな気がしていたけど、自分を守るためになかったことにした。
もしもイツキがぼくのことを好きだと認めたら、ぼくがイツキを好きなことも認めなければならなくなるからだ。
そして、イツキはぼくをいつまでも好きでいるはずがない。
その時にぼくは死んだ方がマシな絶望を味わうことになる。
突然転校してしまったあの日のように。
でももう、あれを聞かされたら後にひけない。
それが嫌でずっと避けてきたのに。
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