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仲良くしようよ、昔みたいに
昼休みになると、樹の周りに人だかりができていた。
「この時期に引越しって珍しいよね」
「シティボーイや!」
「え〜。梛木君て彼女とかいるんですか〜?」
愛想笑いしている樹を眺めながら、おばあちゃんが作った弁当を食べていた。
吉川隼人は食べかけのパンを机に置いたままボーッとしている。
「あの人……梛木樹って人、知り合い?」
「親同士が友達で、幼なじみ。仲良くないけどな」
「そうなんだ」
隼人は1年生の頃から友達だ。
いつも無口で何を考えているか分からない奴だった。成績は良いので何も考えていない訳ではないんだろうけど、とにかく話すのが苦手のようだった。
重苦しい前髪がかかった眼鏡の奥の細い目で、何か言いたそうにこちらを見ている。
「何だよ」
「……」
「久世と吉川君!」
スタスタとこちらに向かって歩いてきたのはクラスのまとめ役、綾乃だ。
「再来週の土曜日、10人くらいで梛木君の歓迎会あるから来てね」
「どうする隼人。ぼくらは行かないよな?」
「行かない」
「ちょっと!ヒカルは梛木くんの幼馴染なんでしょ? 絶対来い」
ドスの効いた声で命令された。
「……はい」
ドシドシと大股で綾乃が去ってから、ぼくと隼人は顔を見合わせる。
「あーめんどくせえよなあ」
隼人は神経質なしぐさで眼鏡をあげた。これは彼なりの「うん」という意味だ。
***
バス停から徒歩5分の見慣れた木造の一戸建て。
よく言えば趣のある、悪くいえばお化け屋敷的な魅力のあるこの家がぼくとおばあちゃんの家だ。
今日はどっと疲れた。精神力の限界を試された。
おばあちゃんの作った、タケノコと鰹節のやつが食べたい。料理名は知らないけど食べたい。癒されたい。
「おかえり、ひー君! タケノコと鰹節の料理美味しかったわ」引き戸を開けると、アンチ癒し系・梛木樹がそこにいた。
「……聞いてないぞ」
「ヒカルのご両親が、住んでいいっていうから。俺の父さんもそうしろって」
「ぼくは認めてないぞ」
「俺が決めたから、そうするの」
イツキは、憎たらしい笑みを浮かべている。
「玄関に靴なかったぞ…?」
「ヒカルをびっくりさせようと思って」
「ヒカル、そういうことだから」
「ばあちゃん!早く追い出してよ」
「樹くんは、あんたのお父さんの親友の子なんだから」
「さすがおばあ様、心がお優しい~」
「……樹君を見てると、死んだ爺ちゃんを思い出すわ」
「!? 騙されるなばあちゃん!目を覚まして」
ぼくはばあちゃんの肩をゆすった。
「目を覚ますのはあんただよ。仲良くしなさい」
「仲良くしようよ、昔みたいに」と、イツキ。
こいつはこちらの気持ちなんて考えずに、とにかく強引に物事を進めれば何でもかなうと思っている。
「肩を組むな肩を……」
振り払う気力も起きなかった。
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