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愛してるよ、ひかる
梛木樹(なぎ いつき)が転校してから2週間ほど経った。
明るくて誰とでも話せる性格なので、クラスにもすっかり馴染んでいた。
家に帰ってもイツキがいるが、意外なことに昔のように嫌がらせをすることはなかった。
「昔はミミズを持って追い掛け回されて泣かされたり、大事にとってたお菓子を食べられたり、ゲームで遊んでばかりいるからとか言ってデータ消されたりしたもんだけど……
何もしてこないぞ?」
「へえ」
隼人は頭をかく。チェックのシャツからガリガリの手首が伸びている。
「再開した時は、すごく怖かったけどな。“好きだよ、ひー君”とか言って」
「大人になったんじゃないの?」
「ところで、歓迎会行きたくないな。隼人も苦手だろ? ぼくは綾乃がうるさいから行くけど、隼人は別に、今から辞めてもいいんだぞ?」
隼人はゆっくりと頭を振った。
「行く……」
待ち合わせ場所の店につくと、女の子が6人と男が5人の合コンみたいな状態だった。一番苦手なシチュエーションだ。
「久世ー遅刻だよ!」
「ごめんごめん」
イツキは奥の方で、女の子達と何やら話している。
「吉川君、来てくれたんだ!ありがとう」
綾乃はぼくを挟んで隼人にニッコリと笑いかけた。
「……うん」
「綾乃って、隼人のこと好きだよなあ。いくら好きでも、ぼくの隼人はやらんぞ!」
「なっ……」
綾乃は、真っ赤になって黙り込んだ。
「えっ?」
ぼく、やらかした?
「綾乃さんは、皆のことが好きだから」
そうフォローしたのはイツキ。
「…そうなの、私、変に世話焼きなとこあるから!」
綾乃は(イツキくんありがとー!)と口パクして、それからぼくを睨みつけた。
「ねえねえ、洸くんて、樹くんの幼馴染なんでしょ? 子供の頃の樹君って、どうだったの?」
三好さんは、イツキにべったりだ。
「ええ? えーと……。昔からこんな感じだよ。あと、ぼくの初恋の人をイツキにとられた」
「きゃはは!」
「爆笑するところじゃないのに、笑われた。地獄だ……。地獄歓迎会だ。なあ、隼人?」
めったに表情が変わらない隼人の顔が、少しだけ赤くなっている。しかも、ぼくの膝にそっと手を置いている。
「えっ…隼人お前もしかして……綾乃のことが?」
ぎゅっと目をつぶって否定しているが、どう見てもおかしい。
「やめとけやめとけ! 綾乃は怖いぞ!!」
興奮して大声を出してしまった。
「聞こえてるんだよ。ねえ、ヒカル君、今日で終わる気なの? 今日で終わる覚悟あるの?」
その後、綾乃に思いっきり耳をひねられた。
「席替えー!」
「俺、ここがいい」
イツキは、ぼくの隣に座った。
「帰ったら家で会えるんだから、他のやつと話せよ」
「今、ひー君と話したいの。一番歓迎して欲しかったから」
「はいはい」
「まだ怒ってたんだ、あのこと」
「リンネちゃん事変のことは一生忘れない」
イツキは無表情のまま、顔をぐっと近寄せる。
「リンネちゃんをとったのは、ヒカルが俺よりリンネちゃんを好きになると困るから」
後ずさりしそうになると、腕をぐっと掴む。
「愛してるよ、ひかる」
この時、ぼくはイツキと再開して初めて、しっかりと顔を見た。冗談みたいに綺麗な顔だ。それを考えないために、今まで見ないようにしていた。
「……バカにしてんのかよ…」
ぼくは混乱していて、そう言ってしまった。
イツキは、一瞬眉をひそめて、その後口角を上げる。
「……バレた?」
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