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言うつもりなかったのに
今まで何人の人が、「愛してる」という嘘をつかれたんだろう。
嘘のつもりはなくても結果的に嘘になった「愛してる」。
この星は、たくさんの「愛してる」が死んでいった墓場だ。
だから宇宙から見たとき地球は切ない色をしているし、夕暮れの空の色も濃紺色なんだ。
ぼくはアホみたいにセンチメンタルな気分になっていた。
校庭の草むらで寄り添って座っているイツキと、その彼女を窓から眺めながら。
「樹くん、また彼女変えたんだね」
近頃隼人は前よりは無口じゃなくなった。
「あいつ、この学校の女子全てと付き合うチャレンジでもしてるのか? よく女子に嫌われないな」
「すっごく、チャラいんだね。あと、今まで聞いてきた、ヒカル君に昔した事もひどいと思う」
隼人が嫌悪感を露わにするのは珍しかった。
「そうなんだけど……。イツキは、子供の頃は体が弱くて、入院ばっかしてたらしくて」
今では考えられないほど元気になったけど、イツキが子供の頃にここに引っ越してきたのは、療養も兼ねてのことだった。
よく学校を休んでいて、ノートを隣の家まで持っていったっけ。
「子供の頃に言ってたよ、元気になったら全部自分のやりたいようにやる、って。どんなに嫌われても、やりたいことをやって生きたいんだってさ。」
「リンネちゃん事変も、ミミズ事件も、今彼女作りまくるのも、その結果だよ。すごいワガママで周りは迷惑するけどな……」
「友達だと思ってるんだね」
「まあ、色々あっても幼なじみだからな。」
「そんなことより、綾乃とはどうなったんだよ?」
「綾乃さん?別に……」
「嘘つけ、歓迎会の時いい雰囲気だったろ。赤くなってた」
隼人の返事は返ってこなかった。
ただ妙にソワソワしている。
ぼくはイツキと女の子が、ちょうど教室の真下を通るのを眺めていた。
「ひかる君」
「ん?」
骨ばった指がぼくの手の甲に触れる。
「ぼくの隼人はやらんぞ、って言ってくれたの、嬉しかったよ」
隼人の手は震えていたし、声も裏返ってあた。
「どうした?隼人……」
薄い唇がぼくの唇の端に当たって、ようやく隼人が何をしようとしているのか気づいた。
「きゅ、急になんだよ」
「ごめん。キスしてもいい?」
「どうしたんだよ急に」
「急にじゃないよ。だって俺、いつも……ひかる君で抜いてるし」
「隼人!?」
「……気持ち悪かったよね。ごめん。今の忘れて」
「気持ち悪くないよ、別に気持ちよくもないけど……」
焦って意味不明なフォローをしてしまった。
心臓がバクバクいってる。
「あの人が転校してくるまで、言うつもりなかったのに」
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