65人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
きな子のこと
まっすぐ帰る気にはなれなかった。
本屋に寄って好きな漫画の新刊を買って、ただっ広い河川敷で読んでみたものの、何も頭に入らない。
家に着くころにはすっかり暗くなっていた。
玄関の前にイツキはしゃがんでいて、ばあちゃんが飼っている柴犬の柴太郎を撫でている。
「……きな子のこと、覚えてる?」
きな子は、昔イツキが飼っていた犬だ。
頭のいい子で、他の犬が吠えても、吠え返さない優しい子だった。
ぼくたちが小学3年生の時に、老衰で亡くなった。
「覚えてるよ。いい子だった。……ばあちゃんは?」
「今日はご近所さんと隣の市までコンサートで遅くなるって。元気だよね」
イツキとばあちゃんと3人暮らしになって1ヶ月が経つが、家の中で二人きりになるのは初めてだった。
イツキは想像していたよりもあっさりしていて、特に歓迎会の日以降は話しかけてくることも少なくなった。
(二人きりかよ……)
「今、二人きりかよって思ったでしょ。もう昔みたいにいじめないって……。
そもそも、俺はいじめたつもりなんてないけど」
晩御飯はコロッケとキャベツと、豆腐とわかめの味噌汁と納豆だった。
ばあちゃんが出かける前にラップをかけてくれたものだ。
「イツキ、晩御飯食べてないじゃん。温めるよ?」
「いらない。豆腐好きじゃない。味ないじゃん」
「食べろや。何でそんなワガママなわけ?」
いつもはばあちゃんが、テレビを見ながら色々と話しかけてくるから、イツキと二人で話すこともなかった。
学校ではイツキは他の男子と一緒にいるし、ぼくは隼人といつも一緒で……隼人はぼくでぬ……。
「うわああああ!!」
「どうしたの? 大声出して」
「何でもない…」
隼人の爆弾発言を思い出してしまった。
「へえ」
最初のコメントを投稿しよう!