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梛木樹の告白
校庭から、遠いかけ声が聞こえる。
梛木樹は教室の窓をそっと閉めた。
「イツキ君に、せっかく手伝ってもらったのに、駄目だった……」
綾乃は赤い瞼をこすりながら、言った。
「俺の作戦が急すぎたんだと思う。ごめんね」
「ううん……ありがとう。これで、前に進めそうだから」
「良かった」
「もしイツキ君に好きな人ができたら、その時は手伝わせて! 絶対成功させるから」
「ありがとう、でも、もう手に入りそうだから」
梛木樹の唇から白い歯が覗く。
「そうなんだ! 今度お祝いさせてよ。ヒカルも呼んで……」
「そうだね。皆でお祝いしよう。隼人君も、これまで通り友達として呼ぼう」
綾乃と別れて、バスに乗ると、見慣れた街並みがキラキラ輝いて見えた。
今日、ずっと欲しかったものが手に入りそうだ。
停車のブザーも、早く押してしまった。
見慣れた家につくと、ヒカルのおばあちゃんが飼っている柴太郎が出迎えてくれる。
ヒカルは面倒ごとがあるときは、必ず遅く帰ってくる。
だから今日も遅くなるだろう。
そういうところも、可愛いよね。
すべてが可愛い。
おおむね計画通りだし、思った通りだ。
ただ、隼人君の存在は、ちょっと意外だったな……。
俺の好きなヒカルが重い足取りでやってくると、
「本当は、ずっと好きだったよ」
と恥ずかしそうに言うだろう。
そして全部、俺の思い通りになる――。
<了>
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