Day 1 10月11日(木) 戎谷有悟

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 Day 1 10月11日(木) 戎谷有悟

 なかなか眠れない夜を過ごし、翌日、僕は落ち着かない気持ちのまま登校する。  そして、予定していた通り忘れ物を受け取りに職員室に行くが職員会議中で中に入ることができなかった。中に入れるようになったのは予鈴がなった後で、僕は急いで中に入り、忘れ物が保管されている場所を確認し、自分のトートバッグを手にする。幸いにも拾った人物は養護教諭の帆南先生で――彼女はおそらく兄さんの恋人で、僕に対して甘いところがあり、お礼をしに行きがてら、学校で事件がどう処理されているか聞きだそうと考えた。  そして、遅刻ギリギリに教室内に入り、僕は驚愕する――。  そこには昨日殺したはずの安居朱香がいたからだった――。  しかし、僕に対する視線は一部クラスメイトからのいつもの感じで、昨日のことが知られているわけではなさそうだった。知られていたら僕は犯罪者を見る目で見られるだろうし、ざわつきだったりなんなり、いつもとは違う反応があるはずだがそれはなかった。  僕は席に着くなり、安居さんを見つめる。  少し遅れて広谷先生がやってきてホームルームが始まると、先生は「安居朱香さんが亡くなりました」と報告し、教室に驚きの波が広がっていく。  僕は混乱する。目の前に見えている状況と広谷先生の言う内容が一致しないからだ。  それは安居さんも同じようで、叫んだり教室内を歩いたりだと存在をアピールしていた。  安居さんの存在は一旦置いといて、広谷先生の話す内容、アンケート、身体検査とその様子を見るに、まだ僕に繋がる証拠は出ていないようで、糸口も掴めていないようだった。  ボタンと放課後というキーから犯人を絞ろうとしていることが見て取れた。  僕は身体検査を受けても特にメモされることもなく、見過ごされる。昨日のうちにボタンの方を何とかしていてよかったとひそかに胸を撫で下ろした。  そして、もう一つの懸案事項に目をやる。それは僕の罪そのもので――しかし、僕以外には気付いている人はいないようだった。  僕は死んだはずの人間がなぜいるのかを確かめるため、監視、観察するため安居さんに声を掛けることにした。僕以外に彼女が見えたりできる人物がいても不思議ではないからだ。  そして、僕は彼女に提案される。 「私がどうして死んだのか、その真相を調べてくれないかな?」  僕はそれを引き受けることにした。彼女を理由に、事件に関わる情報を集め、僕の代わりになる犯人を捜そうと思った。  そして、彼女と行動を共にすれば自然に彼女を監視することもできるし一石二鳥で――。  最初の日、彼女の家に後を追うように付いて行ったのもそのためで、そのことがきっかけで僕と彼女の距離は縮まった。  当初の僕の思惑とは違い、朱香さんの存在は日に日に僕にとって大きなものになっていった。後悔と共に、僕は罪の重さに耐え切れなくなってきていた。しかし、君が笑っている間は僕も笑っていられた。だけど、そんな時間が永遠じゃないことも分かっていた。  僕は幽霊になった君に恋をした。  それからの君と過ごした時間は、君もよく知っているところだろう。
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