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就職活動で履歴書を作成し、それに添付する証明写真を撮ってきた。
私が利用した機械は、八枚カットのタイプだったが、その内の一枚が、私ではない、まったく別の人の写真だった。
前に写真撮影をした人のデータが残っていて、それが現像されてしまったのだろうか。
一枚分損をした。次からはここの機械を使うのはやめよう。
そう心に決め、実際、まだまだ必要になった履歴書分の証明写真は、別の機械で撮影した。
今回も八カットタイプの写真だったのだが、出てきた品を見て私は愕然とした。
八枚のうち、二枚が別人の写真になっている。しかも、そこに映っている人物には見覚えがあった。
間違いない。この人は、前に別の機械で撮った写真に写っていた人だ。
もしかして私と同じように、現像された写真に他の人の写真が混ざって、機械を変えた人なのだろうか。
でも、普通に考えてそれはない。証明写真の機械が一日にどれくらい使われているかは知らないけれど、今の時期なら私と同じように、履歴書用の写真を撮る人は少なからずいるだろう。たとえ生活圏が同じで、前の所がダメなら今度はここで…と思ったとしても、
同一人物の写真がプリントアウトされるなんて不自然すぎる。
誰かがわざと機械にデータを残し、必要のない他人の写真が数カット混ざるようないやがらせをしているのだろうか。
そんなことをして何になるのかは判らないけれど、人に迷惑をかけるのが楽しくて仕方がないという人間も世の中に入る。きっとここの機械や前の機械も、そういう人の手で細工されたのだろう。
この付近の機械はもう、全部悪質な細工がされている可能性がある。証明写真はまだ必要だから、次回はここから少し離れた駅前の機械を使おう。
そう思い、手持ちの証明写真が終わった後、駅前の機械を使いに行ったのだけれど、出てきた写真を見て私は呆然とするしかなかった。
四カット…八枚のうち半分が別の人の写真だなんて。
しかも、映っているのはこれまでの写真とまったく同じ人…つまり、嫌がらせのデータはこの機械にも仕込まれているということだ。
腹立たしくて仕方がない。このデータを仕込んだ犯人はいったい何が楽しくてこんなことをするのだろう。
憤りながらも、私は機械からすぐさま出ることができなかった。
今回、すぐに必要な写真の枚数は五枚。このままでは一枚足りないのだ。
よそにも機械はあるけれど、そこへわざわざ足を向けている時間が惜しい。もう、損は承知でここでもう一度撮影をしてしまおう。
写真の怒りが現れないよう、苛立ちを押し殺してカメラに向かう。その時私は気づいた。
私の髪形はこんなふうだっただろうか。
長さは確かにこのくらい。肩にかかる程度だけれど、前髪やブローの具合がさっきまでと違う。
気のせいじゃない。絶対に違う。そう、違うといえば顔の造りもだ。
こんな化粧ではなかった筈だ。そもそも、化粧とは関係のない部分が根本から違う。
これは私の顔じゃない。そう、この顔は、証明写真機で写真を撮るたび現像されたあの人の…。
立ち上がる間もなくシャッターが下りる。その音を私は遠くなる意識の奥で聞いた。
* * *
あれ? さっき証明写真の機械に入った女の人、あんな見た目だったかな?
髪の長さはあのくらいだったけど、顔立ちが違うような…まぁ、入る時ちょっと見かけただけだから、最初からあの人だったかも。
いけないいけない。見ず知らずの人をジロジロ見るものじゃないよね。
証明写真…完
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