68人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「……フリーターです」
嘘を吐いた。そうするしかなかった。今までこの仕事をやっていて初めて後ろ暗い気持ちになった。
「そうなんだ。今日もお仕事だったんですか」
「はい、俺遅番だから、大体いっつもこの時間で」
嘘で嘘を塗り固めていく。もう、そうするしかなかった。
「それじゃ、今度から暇な時寄ってくださいよ。俺結構週四日とか入ってるんで。何か、明純さんとは気が合いそうだし」
「あ、はい!」
気が合いそう――だなんて、たったそれだけのことを言われたぐらいで嬉しくなる。俺はそれが恋の魔法に掛かっているせいだなんて、気付いていなかった。
その日から仕事が入っている時は毎回店を外から覗いて、清矢さんが居る時に合わせて店に通った。
一ヶ月を過ぎる頃には、「明純」「清矢」と呼び捨てにしてタメ口で話すくらいには仲良くなった。そして、清矢には恋人が居ることも知った。
それでも、俺は清矢が好きだった。初めての恋に必死だった。
「好き」とか「恋」とか、そういう感情が分からなかったけれど、「会いたい」「話したい」と思う気持ちのままに行動していた。
でも、そんな日々は長くは続かなかった。
最初のコメントを投稿しよう!