雨の夜

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「ゆみが、ゆみがって……俺は何で会ったこともない奴のことを気にしなきゃいけないんだ」  会ったことは無い。でも、見たことはある。  バイトがあるから会えないって言ったクリスマスイブ、駅前で一人でイルミネーションを眺めていた時。  冬だっていうのに露出の多い甘々な服を着た女が牛みたいな乳を清矢の腕に押し付けながら、腕を組んで歩いていた。  二人は笑顔で、とても楽しそうで、俺は堪らなくなって目頭を押さえた。  目が眩んで視界がぼやけるのはイルミネーションのせいだと言い聞かせながら、清矢の顔を思い浮かべるけれど、怪訝に眉間に皺を寄せた顔、呆れた顔、セックスの最中の嘲りの顔、いく寸前の綺麗な顔、そんなものしか無くって、あんな顔見せたこと無いなと、分かっていたはずなのに、現実を目の前で突きつけられて虚しくなった。 「身の程を弁えろよ! 俺はお前とは違うんだよ!」 「……どういう意味?」  清矢の言いたい事はすぐに分かった。だから、腹の底から沸々と湧き上がる感情に身を任せて立ち上がり、彼の正面に立って目を射るように見る。  清矢はすぐに視線が泳ぎ、後ずさりする。 「お、俺はホモじゃない! お前はそうだけど、俺は違う! 大学卒業したらゆみと結婚する約束してるんだよ!」  ――結婚。あの馬鹿そうな牛乳女と。そんな話、初めて聞いた。  俺の動揺に気付いたからか、清矢は嘲りの表情を浮かべて俺を見下す。 「俺は付き合ってやってんだぞ? お前が懇願するから、尻穴に突っ込んでやってんだ! 普通なら告白された時点で気持ち悪がられるぜ」  腹の底で煮え滾った激情が、一気に脊髄から脳へ貫いた。
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