New moon

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走って走って走って やっとのことで公園にたどり着いた。 蒸し暑くてもう汗だくだった。 公園の電灯は少なくて、真っ暗闇にぼんやりとあの塔が浮かびあがっている。 きっとあの塔の上だろう。 「勝也ー!!!!」 …………。 声は聞こえない。もう一度呼んでみる。 「勝也ー!!!!」 ……。 「なんだよ。」 塔の上からぐっと顔をだす。怒っているように見えた。 「……いたのかよー。」 はーーーーっと息を長く吐く。 「いるよ。」 そんな答えを聞きながら、とんとんと階段を上がっていった。 「何してんの。こんなとこで。」 勝也の隣にどっかり腰を下ろす。 「アイス食う?まだ買ったばっか。」 勝也がアイスを差し出す。不安と走ったのでどっと疲れが出た。 「心配かけんなよ。」 「ごめん。休憩してた。」 勝也はぼんやり遠くを見ていた。 「今日は月がでてないからさ。」 眼を合わせないでこう言った。 いつでもどこでも照らしてくる、月の光から逃げているのだ。 「オレ考えたよ。」 「なにさ。」 「月は逃げようとしてるやつを、追っかけてる訳じゃないんだよ。」 「……。じゃあなに?」 「見守ってる。」 勝也は吹き出した。 「結局ついてくんやん。月はいつでもどこでも。」 「だけどさ。」 「うん。」 食べかけのアイスを袋の上に置いた。 「どんなに真っ暗でも、オレらが選んでる正しいか正しくないか分かんない道を、ちゃんと照らしてくれてるんだぜ。」 ぶふっと勝也は今度こそ吹き出した。 「真面目な顔して、恥ずかしくねえの?」 「恥ずかしいに決まってるだろー! だけど勝也が本気で悩んでんなら、本気で 答えるしかないだろ。」 恥ずかしくて顔を合わせられない。 勝也はそのあともげらげら笑っていた。 でも俺には笑いながら泣いているように見えた。 今日は新月だから月は見えない。 でも明日からまた確かに俺らの不確かな道を照らし出す。 優しいあたたかな黄金色で。
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