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第四話
「メリル、ここにいるのかー?」
東の塔は薄暗い。
かろうじて階段の両端には足下を照らす程度の灯りが備えられているが、そのくらいではこの塔自体が持つ不気味さを払拭することなどできない。
ようやく長い階段を登り終えて息をつくと、人などいそうにないような静けさを漂わせた大きな扉が目の前に現れた。その扉の向こうへと声をかけてみるが、やはり返事はない。気のせいか、オレが東塔で実習をやっていた頃よりもずっと障気が濃くなっているような……。先生も今日メリルが東塔にいると言っていたわけではないのだからここは引き返すしかないか――そう思っていたオレの背後から複数の足音が近づくのが分かった。
「もしかしてお前、ユーグ・エルリーズか? あの数年前にとんでもな事件を起こした召喚士のできそこない君」
ディズとはまた違う、心底人をバカにしたような言い方はオレも聞き覚えのあるもので、つい当人を前にしてげんなりとしてしまう。
「できそこないじゃないよ、カジ。今や立派な下町召喚士ギルドの一員、立派な召喚士様だ。宮廷召喚士を目指している我らなんかとは到底かち合わない、ね」
そういえばカジっていうのを先頭に、いつも5、6人がつるんでいた気がする。揃いもそろって親が金持ちで、一向に卒業することができないボンボンたちだっていう印象だけが残っていた。
「相変わらずつるんで暇な連中だな。それよりメリル知らないか」
どうせ連中がオレのことを馬鹿にしているのは今に始まったことじゃない。だが連中はお互いの顔を見合わせると、より一層笑いだした。
「おい、メリルだってよ! 一回も召喚に成功したことのない我らが友! ……ってことは、あいつに召喚獣連れてこいって頼まれたのは手前ってわけか。やっぱりな」
カジがニヤニヤとした顔でオレに近づいてきた。さっき鞄の中に無理矢理押し込めたフェアリーが出てきたそうに身を捩らせているのがわかったけど、今ここで出してやるわけにはいかない。無言で睨みつけていると、今まで静寂を守っていたはずの扉の向こうから何かが爆発するような大きな音が聞こえてきた。
「っおぉー、なんか派手になってきたな。メリル君大活躍ってか? 俺たちのお膳立てが効果出したってところかな」
「……ッ!」
中にメリルがいて、不穏な音がして。
ここにグリフィスを連れてこなかったのを後悔したが仕方がない。力づくで大きな扉を開くと、思ったよりも明るい照明の中に浮かび上がるようにメリルらしい青年が床の上に倒れ込んでいた。
「メリル!」
年上なのに、もしかしたらオレよりも召喚術へのセンスはない。けれど力持ちで、なによりこの貧弱な外見とか目の色とかでさんざん馬鹿にされることが多かったオレの唯一といっていい友人である。いったい何が起こっているのか分からなかったが慌てて駆け寄ると、とうとう耐えきれなくなったらしいフェアリーがもぞもぞと鞄から出てきて、外に出るやいなやびっくりするほどの叫び声をあげる。人の言葉を話せるわけじゃないからキーとかギーとかそんな音だけれど、彼女の鬼気迫る表情に、この場に何かが――いてはいけないものが、いるのを知った。
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