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「大丈夫だ。
お前が初めて俺に向かって、微笑んでくれたときのことを思い出しながら、出頭するから」
いや、貴方、なにもしてないのに、どうやって殺したとか、動機はなにとか思いつくんですか……、
と思いながらも、柚葉も思い出していた。
琢磨のことを仕事に厳しいだけの男ではないと気づいたときのことを。
「私もあのときのことは忘れません。
社長が初めて私に応募券をくれたときのことを」
「……応募券?」
と汐田が訊き返す。
「私、パンについてる応募券を集めて懸賞に応募するのが好きなんです。
パン、毎朝食べるし、袋についてる応募券そのまま捨てるのもったいないなーと思って。
その話を社食でしてたときに社長が聞いてらしたみたいで。
ある日、私の側に来た社長が、すっ、と私のデスクに応募券を三枚置いてってくれたんです。
振り返って社長の顔を見たら、ちょっと恥ずかしそうにしてて、
『ありがとうございますっ』
って驚きながらも言ったら、
『……うん』
って。
ギャップ萌えってやつですかね?
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