プロローグ (過去、現在、未来)

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プロローグ (過去、現在、未来)

 エルは、歩きながら考える。  時間とは何だろう?  過去、現在、未来とは何だろう?  過ぎ去った「過去」とは何だろう。それは存在するのか。もう存在しないのか。  四次元時空連続体といったものを想像すれば「過去」は“今”でも存在するかのように見える。しかし、ある決まった運命の連続体がただひとつだけ存在するとはどうしても思えない。「未来」が“今”決定されてあるとはどうしても思えない。決定された「未来」がひとつだけあるなんて考えにくい。「未来」はまだ不確定な無数の可能性としてあるのではないか。ひとつだけの四次元時空連続体が、でんと、物体のように寝そべっているなどと考えてはいけないのかもしれない。  すると、「過去」とは何か。  あらゆる可能性の中から、「現在」を経て選ばれたひとつの結果だろうか。 「まるで、量子力学の波動関数の波の収縮みたいね」と、エルは苦笑いをする。  いずれにしても「過去」はどこへいくのだろう?  もう、記憶の中にしか存在せず、実体はどこにもないのだろうか? いや、あるのだろうか?  過去を変えることができたら、とエルは何度も思ったことがある。  でも、そんな“マシン”は、まだ発明されていない。  エルは考えることに少し疲れた。 「ああ、それにしてもずいぶん長い時間が通り過ぎたわ……」と、エルはつぶやく。  新春の珍しく春めいた暖かい日。  エルは、ひたすら目的の場所へ向かって黙って歩き続けた。
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