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レストラン特有のやわらかな喧騒の中から、窓際の席でこちらに微笑みかけている彼女を見つけるのはたやすいことだった。ケイは足早に彼女のもとへ寄った。
「だいぶ待たせちゃったのかな」
「ううん、今来たばっかりよ」エルはちょっととぼけてみせた。二人は顔を見合せて軽く笑った。
「でも、これを見たらきっと許してくれるよね、エル」
ケイは背中に隠していた花束を差し出した。
「ああ、こんなきれいな花を……」花束を受け取ってそう言ったきり、彼女は嬉しさと驚きで声も出ない様子だった。
「ほんとは奮発してもっと大きな花束が欲しかったけど、なかなか──ね。うちの会社はPFCといってもケチなんだよ。商品を社員に安く分けてくれる訳でもないしね」照れ隠しにそんなことを言いながら、ケイはテーブルを挟んでエルと向かい合わせに腰掛けた。
「そのうち君の御両親のところへも正式に御挨拶に行こうね──いいだろ?」そう言ってケイはエルの目を見た。エルは頷いた。
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