第一部 ケイの冒険

2/29
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
 レストラン特有のやわらかな喧騒の中から、窓際の席でこちらに微笑みかけている彼女を見つけるのはたやすいことだった。ケイは足早に彼女のもとへ寄った。 「だいぶ待たせちゃったのかな」 「ううん、今来たばっかりよ」エルはちょっととぼけてみせた。二人は顔を見合せて軽く笑った。 「でも、これを見たらきっと許してくれるよね、エル」  ケイは背中に隠していた花束を差し出した。 「ああ、こんなきれいな花を……」花束を受け取ってそう言ったきり、彼女は嬉しさと驚きで声も出ない様子だった。 「ほんとは奮発してもっと大きな花束が欲しかったけど、なかなか──ね。うちの会社はPFC(プラスチック・フラワー・カンパニー)といってもケチなんだよ。商品を社員に安く分けてくれる訳でもないしね」照れ隠しにそんなことを言いながら、ケイはテーブルを挟んでエルと向かい合わせに腰掛けた。 「そのうち君の御両親のところへも正式に御挨拶に行こうね──いいだろ?」そう言ってケイはエルの目を見た。エルは頷いた。  
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!