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「でもよぉ、金貨3枚にまけてくれるんなら手がないこともないぞ。」
アシェルがコーヒーにミルクを溢れそうなくらい足しつつ言った。
「そうだな。」
双子だからかレビィはアシェルの言わんとしていることをすぐに察したが、シンシアとクープは何のことやらわからずアシェルを見つめた。
アシェルはニヤリとして言った。
「コンテストの優勝賞金、子どもの部は金貨3枚だろ?」
「それでめでたくあのヴァイオリンを買い戻せるわけだ。」
2人の提案にシンシアは驚きの余りコーヒーのサーバーを落としそうになり、クープは絶句した後、素っ頓狂な声を上げた。
「そんなことできるわけないだろっ!そりゃあ、父ちゃんに教えてもらったから音くらいは出せるけどたった2週間で優勝なんて無理に決まってるよ!」
「そうか。じゃあ、ヴァイオリンは諦めるんだな?」
レビィの言葉にクープは口籠もった。
レビィは更に質問を重ねた。
「どうして無理って決めつけるんだ?そんなのやってみなきゃわからないじゃないか。もしお前にその気があるんなら協力してやらんでもないが、どうする?」
ゴクリ。
とんでもない無茶ぶりにクープは目を瞬かせながら生唾を飲み込んだ。
アシェルとレビィは涼しい顔をして返答を待っている。
長い沈黙だ。まぁ、無理もないが。
「俺、やってみる。」
やがてクープは覚悟を決めたように言った。
「だから俺にヴァイオリンを教えてくれ。」
するとアシェルがまたクープの頬を引っ張った。
「ひてっ!」
「ヴァイオリンを教えて下さい、だろ?」
「ほひえて・・・くらはい。」
「よろしい。」
アシェルは手を離して食堂の出入口を指差した。
「そうと決まればシュルツの店へ行ってあのヴァイオリンを予約してこい。責任は俺達が持つからって言うのを忘れるな。」
「う、うん!」
クープは店を飛び出していった。
「あの、大丈夫でしょうか?」
シンシアはとても心配そうに恩人達に尋ねた。
「さあ、どうかなぁ?」とアシェルが飄々として答え、「それはクープ次第だな。」とレビィが不敵な笑みを浮かべた。
シンシアとしては何の救いもない返答で、ただただ不安が募るだけだろう。
・・・やれやれ。
予定外の道へ進んだ挙句に余計なことに首を突っ込みおって。
とんだ遠回りだがこうなっては仕方がない。
まずは彼らのお手並みを拝見するとしよう。
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