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将軍はアシェルとレビィの父親だった。
西側の同盟国の音楽学校へ留学していた2人は難を逃れ、ようやく祖国に戻れたのは悲劇の日から半年以上過ぎた時だった。
そこで彼らが目にしたのはおびただしい数の墓標ーーー。
木を立てただけの粗末な墓標の中には先祖代々仕えた王族と父親のものもあった。
僅かに生き残った国民が埋葬したのだろう。
その者達も生活の場を求めて既に立ち去り、2人の故郷は完全なる廃墟となっていた。
祖国と愛する人々を失ったアシェルとレビィに遺されたものは、留学前に父親から贈られた二台のヴァイオリンだけだった。
今思えば彼らがクープに肩入れしたのも父親の形見を取り戻そうとする少年の姿が自分達と重なったのかもしれない。
そうして帰る国を失ったアシェルとレビィは流浪のヴァイオリニストとなった。
その頃の2人の胸には恨みつらみや復讐心が渦巻いていた。
だが長い旅路の中で彼らは暗い感情の全てを手放した。
蹂躙した者、蹂躙された者。
国としての立場は違うがその一人一人の殆どは善良だった。
恨み続けるには誰もが余りに優し過ぎたのだ。
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