約束

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自宅の食堂のカウンター席でクープはうなだれていた。 父親のヴァイオリンを取り戻すチャンスを失ったのだから無理もない。 シンシアは宿泊客の夕食の準備をしながら落ち込む息子を心配そうに見つめていた。 アシェルはクープの隣でミルクがたっぷり入ったコーヒーをすすっている。 ガチャッ! ノブが回る音がして食堂の扉が開き、レビィが入ってきた。 「お待たせ。」 レビィはつかつかとカウンターまで来るとクープの前にそっとヴァイオリンケースを置いた。 クープはびっくりしてレビィを見上げた。 「開けてみろ。」 レビィに促されておずおずとケースを開けた。 そこにはクープの父親のヴァイオリンが入っていた。 「これ・・・何で?」 「お前に渡すならとシュルツが金貨3枚で譲ってくれた。」 「でも・・・これはお前達の賞金で買ったんだろ?」 そう、アシェルとレビィは文句なしの満場一致で優勝し、金貨5枚を手に入れた。 それでこのヴァイオリンを買い戻したというわけだ。 アシェルはコーヒーカップを置いて答えた。 「そりゃあ、そうだ。俺達も金貨3枚なんて大金持ってなかったしな。」 クープは悲しそうに、でもきっぱりと言った。 「じゃあ、貰えない。それはお前達のものだ。」 そんなクープの左頬をアシェルが容赦なくつまんで引っ張った。 「ひてっ!はひふんはよっ!」 「危うく聞き流すとこだった。お前達、じゃなくて先生達、だろ?」 反対側の頬をレビィが同じように引っ張る。 「それに誰がやると言った?金貨3枚はお前への貸しだ。」 「はひ!?」 2人は手を離した。 涙目で両頬をさするクープにアシェルが言った。 「一度しか言わないからよく聞け。お前には親父さん譲りの才能がある。ちゃんと練習を続ければ必ずヴァイオリンで稼げるようになるから、俺達に金貨3枚を返せるように死ぬ気でやれ。絶対に取り立てにくるから覚悟しておけ。」 「それで、だ。近々シュルツがいい先生を紹介してくれることになった。1週間以内にはって言ってたから頃合いを見て店に行ってみろ。」 レビィが言うとクープはひどくギョッとした。 「先生!?でも、そんなお金は・・・。」 「金はもう払ってある。それは俺達とシュルツの間の話だからお前には関係ない。」 「と、言うことで。ごちそうさま。」 アシェルはコーヒーを飲み干して席から立ち上がった。 気づけばいつの間にかアシェルもレビィも旅仕度をしていた。
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