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「もう、行っちゃうの?」
クープは椅子から飛び降りて寂しそうに2人に尋ねた。
アシェルはヴァイオリンケースを背負い、黒革のバッグを肩にぶら下げながら言った。
「ああ、急がないと暗くなっちまうからなぁ。」
「待って下さい。ヴァイオリンのお礼もしてないし、せめてもう1泊くらいしていって下さい。」
シンシアが声をかけたが2人は首を振った。
「ヴァイオリンはあくまでも貸しだから礼なんていらないし。」
アシェルの言葉にレビィが付け足す。
「これ以上うまい料理とふかふかなベッドに慣れたら旅ができなくなる。」
「あんた達に会えて久々に楽しかったよ。」
「世話になった。ありがとう。」
アシェルとレビィは微笑んでシンシアにそう告げると、クープの頭を順番にガシガシと撫でて食堂から出ていこうとした。
「あ。」
レビィが扉を開けたところでアシェルが急にクープのもとへ引き返した。
何だか嫌な予感が・・・。
そしてそれは見事に的中した。
アシェルはポケットから私を取り出した。
おい、待てっ!
まだ潮時ではないだろう!?
お前達はまだ何も得てないではないか!!
早まるな!
考え直せぇぇぇ!!
しかし。
私の声が届くはずもなく、アシェルはクープの手のひらに私を置いてギュッと握らせた。
「これはお守りだ。お前がいいと思う時まで絶対に手放すな。いいな?」
クープは泣きそうな顔でコクリと大きく頷いた。
アシェルほもう一度クープの栗色の髪をガシガシと撫でた。
そしてレビィと共に食堂を後にし、もう二度と戻ることはなかった。
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