7人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
双子のヴァイオリニストに出会ってから二日。
その日の朝、彼らは古都ミクルから東へ30キロほど離れたラトンという町の安宿を発ち、両側に広大な畑が広がる一本道を歩いていた。
ヴァイオリンケースを背負い着替えなどが入った黒い皮袋を肩にぶら下げたアシェルはうーんと伸びをした。
「今日もいい天気だなぁ。」
同じ格好のレビィも抜けるような青空を見上げた。
「こんな日はどこまでも歩ける気がするな。」
「このまま行ったらどこに行くのかなぁ?」
「さあ?どっかには着くだろう。」
「そうだな。」
何の計画性も無く、極めてテキトーだ。
私は自らを手にした者の過去を知ることができるわけだが、彼らはこれまでも万事がこんな調子の旅をしてきたようだ。
しばらく進むと、やがて道が左右に分かれていた。
彼らは立ち止まり顔を見合わせた。
「どっちに行く?」
レビィの問いにアシェルはうーんと考え込んでから「そうだ!」とポケットを探った。
「これで決めようぜ!」
取り出したのは1枚の金貨、そう私だ。
「表が出たら右、裏が出たら左でどうだ?」
アシェルの提案にレビィも素直に頷いた。
「面白い。滅多にお目にかかれない金貨だ。きっと幸運へと導いてくれるだろう。」
そうだとも、なかなかわかっているではないか。
私は彼らに“表”を示し右の道を選ばせる。
その先はラナシアの首都カーディアン。
そこで私は彼らにひとつの幸運を用意している。
ラナシアで最も裕福な大豪商との出会いだ。
ただし。
私が与える幸運はそこまでだ。
実力があればチャンスを掴みとれる。
しかしそうでなければそれまでで、彼らは生きる為にいずれ私を手放さざるを得なくなるだろう。
幸運とは誰にでも舞い降りてくれるものではないのだ。
だが私は信じてる。
アシェルとレビィの腕があれば必ず大豪商に気に入られ、彼の庇護のもとヴァイオリニストとして名を馳せ、ひと財産築くに違いないと。
最初のコメントを投稿しよう!