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ようやく追いついた30代半ばの楽器店の店主は息を切らしながら言った。
「クープ・・・お前の気持ちはわかるけど・・・店から無断で持ち出すなんて勘弁してくれよ・・・。」
栗色の髪をしたクープは口を尖らせて俯いた。
12〜13歳くらいのまだあどけない少年だ。
気づけば周囲には何の騒ぎかと人だかりができていた。
ほら、見ろ。
お前達がコインの裏表も知らぬからこんな厄介ごとに巻き込まれるのだ。
「クープ!」
私が毒づくと同時に野次馬達の中からクープと同じ栗色の長い髪を肩先で束ねた女性が飛び出してきた。
クープの母親のようだ。
「ああ、シンシアさん。」
「シュルツさん。クープが何かしたんですか?」
楽器店の店主・シュルツは言いづらそうに話した。
「その、クープがヴァイオリンを店から持ち出しちゃって・・・。」
「まぁ!」
シンシアは下を向くクープを厳しい口調で諭した。
「クープ。あなたがしたことはとてもいけないことだとわかっているわね?」
「うん・・・。」
「それならシュルツさんに言わなきゃならないことがあるでしょう?」
「でも、あのヴァイオリンは・・・。」
「でも、じゃないわ。どんな理由があってもあなたがしたことは泥棒よ。」
母親の言葉にクープは反論を諦めた。
そしてしばしの沈黙の後、シュルツを見上げて「・・・ごめんなさい。」と謝りヴァイオリンを返した。
「ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした。」
シンシアも立ち上がり心から謝罪した。
そんな親子に野次馬達から冷ややかな視線が注がれ、あちこちからヒソヒソ話が聞こえ始めた。
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