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プロローグ
ラナシア本国の東部に位置する古都ミクル。
その中心部、歴史ある時計台が聳えるメイシュルト広場は、毎日たくさんの観光客で賑わっていた。
多くの人々がランチタイムを終えた昼下がり、時計台の前で20代前半と思われる見目麗しい2人の青年がヴァイオリンを弾き始めた。
彼らはアシェルとレビィ。
演奏を聞いた人々がヴァイオリンケースに投げ込む金で生計を立てつつ世界を旅する双子のヴァイオリニストだ。
180センチに届きそうなほどの長身にシンプルな白いシャツとカーキのズボンを纏い、艶やかな黒髪を揺らしながらヴァイオリンを奏でる秀麗な姿にまず年頃の女性がうっとりと見入った。
しかもヴァイオリンの腕も相当なものなので
演奏が終わった時にはかなりの聴衆が集まっており、アシェルとレビィが深々とお辞儀をすると割れんばかりの拍手と共にヴァイオリンケース目掛けて次々と金が投げ込まれた。
と言っても殆どは銅貨で、かろうじて銀貨が2〜3枚混じっている程度だが。
それぞれの目的地へ散っていく聴衆達にもう一度深々と頭を下げてから、アシェルとレビィはケースの周りに散らばった金を集め始めた。
その時、彼らの前に1人の老紳士が現れた。
上質な生地で仕立てた黒のスーツに身を包んんだ彼はアシェルとレビィとはおよそ縁のなさそうな、いわゆる“上流階級”に属する男だった。
老紳士はポカンと自分を見上げるアシェルの手を握り締め、そして言った。
「素晴らしい演奏だった。君達の未来に幸あらんことを願っている。」
老紳士は静かに微笑み、待たせていた立派な馬車に乗り込んで立ち去った。
呆然と見送ったアシェルの手のひらには一枚の金貨が乗っていた。
それは“幸せの金貨”・・・つまり私だ。
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