《2》

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「そんなに好きなら、言っちゃえばいいじゃん。私、超能力者ですって」  帰り道。彰人先輩から貰ったチョコレートをいつまでも眺めている私に対して京ちゃんが言った。 「いつも言ってるでしょ。それじゃあ部長が好きなのは私じゃなくて、超能力になっちゃうって」 「じゃあ私もいつも言ってるけど、それも含めて咲なんじゃないの?」  夏休みが終わっても夏が終わった訳ではなくて、夕方になってもだいぶ蒸す。ダサいのはわかっていたけど、私はシャツの袖まくりを3回折から4回折に増やした。 「そうなんだけど、それって外見で人を好きになるのに近くない?」 「外見以外の何で好きになるの?」  京ちゃんが整った顔の眉を寄せた。 「......性格」 「その性格だって、その外見ありきじゃん」  言い返せない私をたっぷりと見つめてから、京ちゃんは静かに息を吐いた。 「咲の言いたいこと、わからなくもないけど、持ってるものは使ったら?宝の持ち腐れになるよ?」  京ちゃんはいつも、私の選択肢にはないような言葉を使って私と話す。  私は自分の能力についてクラスメイトは勿論、家族にも話していない。そんな中で京ちゃんは、唯一私の能力について知っている親友だ。初めは、京ちゃんにも言うつもりはなかった。でも一緒の部活にいるうちに、言うなら京ちゃんしかいないと思うようになった。  高1の冬、駅前のマックでドキドキしなが、京ちゃんの目の前にあるシェイクを浮かせた。  京ちゃんは少し驚いた後、 「いいね」  と言って微笑んだ。それはFacebookのいいね!なんかとは全然違うテンションで、例えばオーケストラの演奏会の後、スタンディングオベーションをしながら隣の人に囁くような感じに1番近かった。オーケストラの演奏なんて聞いたことないけど。  以降京ちゃんは何も変わらない。  私は、言って良かった、と思っている。 「そう言えば彰人先輩、この間の全国模試に名前載ったってね」  別に怒っている訳ではないことを伝えるように、京ちゃんが私が答えやすそうな話題を投げてくれた。そうなのだ。彰人先輩の成績は校内トップクラスで、理系科目については敵なし状態らしい。 「そうなのそうなの、凄いよね」  別に私が褒められたわけではないけど、嬉しくてつい声が大きくなった。 「頭良し、高身長、優しい、顔は好みにもよるけどそこそこ良し。今は超常現象研究会という部活からその変人ぶりに目がいって皆気づいてないけど、なかなかの有料物件よ。誰かが気づいちゃう前に何とかしないといけないんじゃない?ファイアーストーム、一緒に見たいんでしょ?」 「見たい」  たかが焚火、されど焚火。大川高校の後夜祭で行われるファイアーストームには、火が燃え尽きるところを手を繋いで見た男女は永遠に結ばれる、という如何にもな言い伝えがあった。 「じゃ、頑張んなさい」  駅の改札の中、別れるぎりぎりで、京ちゃんは私の頭をポンと叩いて言って、さっさと歩いて行ってしまった。  だから言えなかったけど、京ちゃん。いつも目で追いかけてるから、私は既に気づいてしまっているんですよ、その誰か、の存在に。
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