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《3》
「カッター何処?」
「暗幕ってこれだけですか?」
彰人先輩にチョコレートを貰ってから数日。文化祭の準備に本腰を入れ始めた部室の中は、段ボールや暗幕、ペンキや新聞紙でいつにも増して物で溢れていた。机はすべてビニールか新聞紙で覆われており、さながら工事現場のようだった。
その中央に鎮座するのが、彰人先輩がインターネットで購入したと言う高さ30センチ程のミャンマーの仏像だ。仏像は真っ白な顔に金色の衣装を纏っていて、荘厳というよりはちょっと間抜けな顔をしている。
今年の超常現象研究会の出し物は、周りに部員たちが段ボールで作ったハリボテの仏像で取り囲み、パワースポットを自作する、というものだった。
「これ、あと何枚作ればいいんだっけ?」
「予定はあと30枚ですね」
「うげぇ」
仏像の形に切り取られた段ボールに、白と金のペンキを刷毛でペタペタと塗っていく。なんだかんだ私はこうゆう地味な作業が好きだ。
「失礼します」
開けっ放しのドアの前で丁寧に挨拶をしてから入って来たのは、御園先輩だった。私を見つけると、手を振りながらこちらにやって来る。
「順調?」
「あ、はい」
「何だ御園、取り締まりか?うちは何もやましいことはないぞ」
私と御園先輩のやり取りに、彰人先輩が割って入る。ちなみに今日の彰人先輩は月刊ムーTシャツを着た背中に、黄泉の国と繋がることのできるお札を張り付けている。
「変な言い方しないでよ。生徒会の見回りです」
御園先輩の、スカートからすらりと伸びた足が眩しかった。彰人先輩が3年5組の変人代表なら、生徒会の美人会計である御園先輩は3年5組のマドンナだ。私はそのマドンナと、同じ中学という薄い繋がりで繋がっている。
「これはなぁに?」
御園先輩が、私の脇にあった金色の箱を指して言った。箱の上部には丸い穴が空いていて、掴み取りの際に使用するようなデザインになっている。
「この箱、パワースポットの中央に置くんです。この箱の中に願い事書いた紙入れると願いが叶うーって。今先行受付中なんですよ」
「へぇ」
「今時点で大人気なんだからな。早くしないと箱に入りきらなくなって叶わなくなるぞ」
これは彰人先輩の明らかな嘘だった。今現在の箱の中身は、全部部員からのもの、言わば身内票ばかりで、《天才になりたい》とか《じぃちゃんのハゲが治りますように》とかふざけた内容のものばかりだった。
「はいはい。じゃあ、書いていこうかな」
「あれ、御園先輩来てたんだ」
買い出しから戻ってきた京ちゃんが、私の背後に立って言った。
「うん」
御園先輩は、空いた机を使って、真剣な表情で何やら願い事を書いていた。そのまま、金色の箱の中に2つ折りにした紙をポトンと落としてから、
「そろそろ行くね、あ」
と言って手に提げていたコンビニの袋を広げる。中には船の絵がデザインされた、あのチョコレート。
「疲れた時は甘いもの。みんなでどうぞ」
「……ありがとうございます」
「じゃあね。部長さん、頑張って」
「……おぅ」
クラスメイトだから、かもしれないけど、御園先輩と話している時の彰人先輩は、普通の男子高校生に見えてなんだかあんまり好きじゃない。
嘘。私は、気づいてる。この力を見せたところで、きっと彰人先輩は私のことを好きにならない。
じゃあ私のこの力は、一体何のためにあるんだろう。
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