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《4》
登校時、校門前に設置された文化祭までのカウントダウンの看板が《あと3日!》を示した今日の放課後。
「手が痛くなってきました」
後輩の女の子が涙目になってペンキを塗る。鼻がおかしくなってきて、始めは気になっていたペンキの匂いにも、もう何も感じなくなっていた。
「咲、ちょっと先にこっちの名札に名前書いて」
京ちゃんが、私に向かって手招きをする。
私たちは当日、首からそろいの名札ケースを下げることになっていた。超常現象研究会の文化祭には、残念ながら衣装もなければお揃いのTシャツもなく、お客さんから研究会の部員であることを判別してもらうためだ。(彰人先輩は最後までやりたがっていたが、少ない部員でわざわざやる必要がない、という意見に勝てなかった)
「字、京ちゃんのが綺麗だから私の分書いて欲しい」
「やだよ、面倒くさい。自分で書いて」
高校生になってもクセ字の私は、自分の字が嫌いだった。京ちゃんはそのイメージにぴったりの整った綺麗な字を書く。
「えー、あ、」
渋々名前を書いて、黒のマジックを元の場所に戻そうとした時に肘が当たり、願い事が入った箱を倒してしまった。
箱の中から紙が飛び出す。
「もう」
「ごめんて」
机に散らばった紙をかき集める。
床に落ちた1枚は京ちゃんが拾って、机の上に置いてくれた。深く考えていなかった。拾った1枚の願い事に、私と京ちゃん共に視線を寄せた。
読み終えたのは、同時だったと思う。私は京ちゃんを見た。京ちゃんも、私を見ていた。
その時、部室に大音量で洋楽が鳴り響いた。
音に驚いた山下くんが、手に持っていた箒を放した。その箒が、ペンキを持っている別の部員の背中に直撃した。箒が背中を直撃した部員の姿勢が、前のめりになった。本人は転ばず耐えたが、両手に抱えていたペンキが、私たちの目の前の机の上にぶちまけられた。
金色のペンキが、机の上を波のように押し寄せる。そこに置いてあった段ボールの切れ端を、ノートを、願い事を、濁流になって飲み込んでいく。
そして、私。
私は、あの力を使った。
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