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《5》
「どうゆう心境?」
私を追いかけてきた京ちゃんは、腕から大量の名刺ケースがついたストラップを下げたままだった。
「そんなの考える暇なかったよ。無意識だもん」
遠くから、大きな笑い声が聞こえる。廊下の窓から目をやると、ホースを持った男子生徒が水をかけ合ってふざけていた。
私は無意識に、御園先輩が書いた願い事の紙を宙に浮かせていた。
それが自分にとってどんな意味だったのか、自分でも良くわからない。
「そ、」
京ちゃんは、右手に持った辛うじて《加納》と読み取れる金色に染まった名札をケースに納めると
「ま、よく頑張りました」
と言ってから、私の首に恭しく下げた。
「ありがとう」
文化祭を2人で周っていたり、ファイアーストームで横に並んでいるところを見るのはまだちょっと辛いけど、何となく、私は大丈夫な気がしていた。
「今日は、このまま帰っちゃうか」
「うん」
京ちゃんが、私の手を引く。私は口を開く。
「なんかだんだん腹立ってきた、オカルト嘗めんな。こっちは本物だっつーの」
「あはは、いいね」
私の言葉に、京ちゃんは心底愉快そうに笑ってくれた。
私は超能力者。1センチだけ、モノを宙に浮かせることが出来る。
それが何だ。
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