45人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「やっぱり・・」
屋上の端に男の子が望遠鏡のレンズを覘いているのが見える。
私はゆっくり彼に近付いて、声を掛けた。
「金城君、また金星を見てるの?」
彼はある時期になると屋上に自作の反射望遠鏡を持ち込み、熱心に金星を観測していた。
「あっ? 金星さん。うん、今日は金星が“衝”の位置で”最大光度点“だから、とても大切な観測日なんだ」
彼は一度、望遠鏡から目を話すと私にそう言い、また望遠鏡に目を移した。
私はフーンと言って彼に問い掛けた。
「ねぇー、”最大光度“点って?」
彼はまた望遠鏡から目を離すと、溜息を吐いて私に向き直った。
「そんな事も知らないんだ・・名前は金星で同じなのに・・」
彼は仕方ないな・・と言いながら説明してくれる。
「地球は太陽系第二惑星だろ? 金星は第三惑星。外惑星の金星は地球より遅く太陽の周りを公転しているから、五八四日に一回、地球と金星が一番接近する。それを“衝”と言うんだ。ちなみに金星が太陽の反対に居て一番遠い点を“合”と言うんだけど、その時の地球と金星の距離は2億六千万キロ。でも“衝“では四千万キロの距離しかないんだ。そして金星は満月だから”最大光度点”でもある。だから最も綺麗に観測できる。今日がその日なんだ・・」
彼は満面の笑みで、一気に喋った。
そう、私はこの笑顔に恋をしたんだ。
最初のコメントを投稿しよう!