金星への想い

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「やっぱり・・」 屋上の端に男の子が望遠鏡のレンズを覘いているのが見える。 私はゆっくり彼に近付いて、声を掛けた。 「金城(かねしろ)君、また金星を見てるの?」 彼はある時期になると屋上に自作の反射望遠鏡を持ち込み、熱心に金星を観測していた。 「あっ? 金星(かなほし)さん。うん、今日は金星が“衝”の位置で”最大光度点“だから、とても大切な観測日なんだ」 彼は一度、望遠鏡から目を話すと私にそう言い、また望遠鏡に目を移した。 私はフーンと言って彼に問い掛けた。 「ねぇー、”最大光度“点って?」 彼はまた望遠鏡から目を離すと、溜息を吐いて私に向き直った。 「そんな事も知らないんだ・・名前は金星(きんせい)で同じなのに・・」 彼は仕方ないな・・と言いながら説明してくれる。 「地球は太陽系第二惑星だろ? 金星は第三惑星。外惑星の金星は地球より遅く太陽の周りを公転しているから、五八四日に一回、地球と金星が一番接近する。それを“衝”と言うんだ。ちなみに金星が太陽の反対に居て一番遠い点を“合”と言うんだけど、その時の地球と金星の距離は2億六千万キロ。でも“衝“では四千万キロの距離しかないんだ。そして金星は満月だから”最大光度点”でもある。だから最も綺麗に観測できる。今日がその日なんだ・・」 彼は満面の笑みで、一気に喋った。 そう、私はこの笑顔に恋をしたんだ。
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