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宇宙船に乗り込むと翔が私と地球を客室まで案内してくれた。シートベルトをチェックしながら、翔が言った。
「この宇宙船は試作機だから百五十人しか乗れない。国民全員を脱出させる能力を持つ宇宙船の準備が整いつつあったのに、本当に残念だ・・」
翔は私達の四点式のシートベルトを念入りに確認している。
「このシートは緊急時にはそのまま脱出ポットに移送される仕様だから憶えておいて」
彼はシートに座らず廊下に立った。
「翔、何処へ行くの?」
私は不安になり彼に問い掛けた。
「もう他の操縦士は残っていない。この宇宙船を飛ばせるのは設計した僕だけなんだ・・。大丈夫、必ず成功する」
そう言って彼はコックピットに向かおうとした。私は彼の左手を掴んだ。
「地球を脱出して、私達、何処へ行くの・・?」
翔が振り返って答える。
「金星へ行くのさ。あそこは人類が生存可能な環境が整っている」
「えっ? 金星へ?」
「そう。とにかく、大丈夫だから、安心して。それじゃ、また後で・・」
私が頷くと、もう一度彼は大丈夫と言って、コックピットに向かった。
客室を見渡すと殆どが空席だった。多分、三十人くらいしか乗っていない。
「これだけの人しか乗れなかったんだ・・」
私はスヤスヤ寝ている地球の頭を撫でながら、私達家族の幸福を神に感謝した。
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