地球脱出

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「我々は金星に行くのか?」 「大丈夫なの? 金星で生きていけるの?」 その不安の声を察したのか、(かける)の追加のアナウンスが流れた。 『皆さん、私達の目的地の金星について簡単に説明します。金星は太陽系第三惑星。公転周期は一.六年、三六五日。直径は地球の一〇五パーセント。重力もほぼ同じです。また大気は二酸化炭素濃度が地球より低い以外は同じ組成です。平均気温も隕石衝突前の地球と同じ摂氏十五度。私達が生きていける環境が揃っています。何より星の寿命を迎えた地球に比べ大きな未来を持っている星と思います。今後も皆さんには新しい情報を随時お流しします』 (かける)のアナウンスに客室では安堵の声が漏れた。皆が金星に行くのが唯一の生き残る道だと思い始めていた。 『それでは、地球軌道を離れる加速に入ります。皆さん、もう一度シートベルトの確認をお願いします。加速十秒前、五、三、一、加速開始!』 ドンと言う音がして宇宙船が再加速を始めた。私の身体にも大きな加速度が襲って来る。窓を見ると地球の姿が段々と小さくなっていく。 約二十五分の加速が終了し、再び無重量の世界になった。客席の前側から声が上がる。 「左側に星が見えるぞ!」 私が左側の窓を覗くと、少し先に太陽照らされて光る星が見える。その星は球状でなく異形だった。 『左側に見える星は、十年前の隕石衝突で地球から飛ばされた岩石が軌道上で集まって出来た衛星です。もともと地球には衛星は無かったのですが、隕石衝突の副産物と言えます』 丁度、目を覚ました地球(テラ)を抱いて、窓の外の星を一緒に見た。 「地球(テラ)、あれは地球の初めての衛星だって・・。そうか、貴女にはまだ分から無いよね・・?」 私は地球(テラ)と一緒に、その異形の星を見ながら、あれが地球の一部だったと聞いて、複雑な想いを感じていた。
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