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再び金星を見上げて
眠っていた私は、大きな衝撃と警報音で目を覚ました。
横で地球も大きな声で泣いている。周りを見渡すと、座っているシートは宇宙船の客室のものだったが、その場所は球体のポッドの中だった。ポッドの壁面に窓が一つあり、外は真っ赤なプラズマが光っていた。
大きな振動、物凄い加速度に身体が動かせない。
暫くすると激しい振動は消え、窓の外に青い空が見えて来た。
突然、大きな爆音がして、ポッドが急激に減速される。後で知ったが、それはポッドのパラシュートが開いた音だったんだ。
そして約十分でポッドは地面に着地した。
私は何がどうなったのか分からなかった。ふと見るとポッドのモニターに『ビデオ映像受信』と表示されていた。私が再生ボタンを押すと記録された映像が始まった。それは激しい警告音の鳴り響くコックピットで録画された、翔からのメッセージだった。
『南、今、君達のポッドを射出した。ゴメン、宇宙船の大気圏突入能力に計算ミスがあったみたいだ。このままでは宇宙船は大気との熱で燃え尽きてしまう』
そのメッセージの間も翔は何かの操作を一生懸命続けていた。翔の後ろで複数の爆発音が聴こえる。
『僕は全ての搭乗者を脱出させる為、最後までこの船に残る。南、地球を頼む・・。君達の緊急ポッドが無事、金星に着地出来る事を祈っている・・あいして・』
突然、映像が途切れた。私は他のメッセージが無いか一生懸命探した。でも他には何も残されていなかった。
私はポッドの中で地球を抱き締め、嗚咽を漏らした。
暫く泣いていた私は地球を見た。彼女は私を見てニッコリと笑ってくれた。
「そうだ、この子の為にも生きなくちゃ・・」
私は意を決して、ポッドのハッチ開放ボタンを押した。
ハッチの外に広がるのは金星の大地だった。
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